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連載コラム Vol.65

リッジで働く人々4 デイヴィッド・テイト

  Written by 立花 峰夫  
 
  モンテベロ・ワイナリーのアシスタント・ワインメーカーは、デイヴィッド・テイトという名のカナダ人である。30歳花の独身、なかなかの二枚目。モンテベロの山頂付近、ワイナリーからすぐの場所にある家で猫と暮らしている。テイトは2002年秋にリッジに研修生としてやってきて、そのまま正規採用となった。以降、エリック・バウアーの下で現場の要として八面六臂の活躍を見せている。

  まだまだ若いテイトだが、ワインの世界でのキャリアはすでに長い。10代後半からレストランでソムリエとして働き、20歳ごろから地元カナダのワイナリーで仕事を手伝うようになった。その後は醸造学部に通いながら世界を飛び回り、オーストラリア、ニュージーランド、フランスのワイナリーで栽培・醸造を経験。2001年に働いたプロヴァンスのドメーヌ・リショームから、リッジを紹介された。リショームの若き当主、シルヴァン・オッシュは過去に二度、リッジに研修生としてきていたからだ。

  豊富な経験のせいもあるだろうが、テイトはとても人としてバランスがいい。外観は若者そのものだが、話す内容は実際の年齢よりもはるかにしっかりしている。和を大切にする性格で、誰とでもうまくやっていける。「醸造家にならなければメカニックになっていた」というほどの車・バイク好きで、ヒマを見つけては愛車のメンテナンスをしているが、それでも優先順位が一番高いのはワイン。その情熱には頭が下がる。

  サイエンスの素養や知識がしっかりあり、大変に勉強熱心なテイトだが(英国のワイン教育機関WSETの資格取得にも励んでいる)、一方で汗をかくことも重視している。立場的には多数いる醸造クルーに指示を出す側だが、みずから率先してハードな肉体労働にもいそしむ。「自分がワインを造っているというリアルな感覚を、大事にしたいんだ」と、いつも話す。ワイナリーでの仕事だけでは飽き足らないのか、2003年から毎年、自宅の納屋でドブロク的ワインを仕込んでいる。ドブロクといってもきちんと樽熟成させて瓶詰めし、オリジナルラベルまで貼った立派なもの。先日2004年を飲ませてもらう機会があったが、なかなかの品質であった。

  リッジで働いてはや4年。旅が好きな放浪者タイプのテイトにしては、長く居すぎているのかもしれぬ。故郷に帰ることも考えはするだろう。だが今のところ、「リッジでの仕事をまだ楽しみたい」と語ってくれてはいる。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。