Archives
連載コラム Vol.63

リッジで働く人々2 ジョン・オルニー

  Written by 立花 峰夫  
 
  リッジの第二の拠点であるリットン・スプリングス・ワイナリーにも、前回のコラムで紹介したエリックと同様のプロダクション・マネージャーがいる。その名はジョン・オルニー。『ロマネ・コンティ』『イケム』といった著書が日本語にもなっているアメリカ人ワインライター、故リチャード・オルニーの甥である。ジョンは、最高の自然派醸造哲学をフランスで学んだあと、リッジにやってきた。

  サンフランシコ郊外の町バークレーには、カーミット・リンチという有名なワイン輸入・販売商がいる。アメリカに自然派ワインを紹介したパイオニアで、世界で初めてリーファー・コンテナでワインを輸入したことでも知られる人物だ。リンチがリチャード・オルニーの親友だったのが縁で、若き日のジョンはリンチの店で6年働いた。

  その間に、ローヌのシャーヴ、プロヴァンスのタンピエといったフランス最高のワイナリーでワイン造りを体験したジョンは、プロの醸造家を目指すようになる。店を辞めて本格的な修行に向かった先は、ロマネ・コンティのオーナー、オベール・ド・ヴィレーヌの元。ボーヌの醸造学校で学びながら、ヴィレーヌがシャロネーズに持つワイナリーでワイン造りを行い、1996年にカリフォルニアへと戻ってきた。その後、リンチとその友人であるアリス・ウォーターズ(カリフォルニアの伝説的シェフ)が、ジョンをポール・ドレーパーに紹介したのである。

  ジョンは筋骨隆々の体躯を持ち、アイロニーとユーモアを常に絶やさない魅力的な男である。コンピューターのように精緻で完璧主義者のエリック・バウアーとは対照的に、ジョンはおおらかかつ骨太のアプローチでワインに向き合っているよう思われる。その方針の根幹にあるのは、フランスで学んだテロワールと自然なプロセスを重視する哲学だ。

  「醸造家の仕事とは、葡萄が進みたいと思っている方向に導いてやるとこと」だとジョンは言う。「野球をしたがっている子供に、無理矢理音楽をやれって言っても仕方ないだろう。葡萄もそれと同じで、したいようにさせてやるしかない」。ただしこれは、何もしない「自由放任主義」とは違う。「テロワールはポテンシャルでしかない。醸造家の仕事は、それを理想的な形で引き出してやることなんだ」
ジョン・オルニーは、「ガイザーヴィルはコート・ロティ、リットン・スプリングスはシャトーヌフ・デュ・パープみたいだ。リットンは骨格がしっかりしていて、スパイシーで土臭いからな」と話す。彼の言うリットンの個性は、彼自身のパーソナリティにも合致しているように思われる。
Archives
 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。