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連載コラム Vol.60
2006 ハーヴェスト・レポート No.2
  Written by 立花 峰夫  
 
 今年の収穫は、かなりイレギュラーなものになっている。通常、ボルドー品種の収穫はジンファンデルより遅い。しかし今年は、ジンファンデルの主要産地であるソノマが例年より涼しく、ボルドー品種の畑があるモンテベロは例年よりも温かかったため、両方の収穫が同時進行するという事態となった。

 次々にあちこちから葡萄がやってくるワイナリーは大忙しである。ホースが四方八方に入り乱れ、クルーは蜂の巣を突いたかのようにせわしく動き回る。9月末には、あわや発酵タンクが足りなくなる一歩手前までいった。モンテベロ・ワイナリーには大小合わせて40あまりの発酵タンクがあり、これは通常のヴィンテージならかなり余裕のある設備だといえる。しかし今年は、ギリギリの綱渡りになった。収穫スタッフの配置、タンク繰り、いずれも難解なパズルとなっている。

 そこにきて、まさかの雨がきた。10月4日の夕方にまず降り、そして翌5日の午後も再び雨となった。カリフォルニアでは、10月末のハロウィンの時期になるまで滅多に雨は降らない。これも、世界的な異常気象の影響なのだろうか。

 その後は、今のところ好天が続いている(10月9日時点)。ボルドー系の品種は、果皮が分厚いため、多少の雨でどうこうなることはない。粒が乾けばそれで問題なしである。だが、シャルドネやジンファンデルは比較的果皮が薄いため、カビの心配がないわけではない。とはいえ、わざわざ不安を口に出して言うものはいない。言霊信仰が、アメリカにもあるのだろうか……。

 とかく異例なヴィンテージになりつつある今年だが、品質のほうはなかなかに素晴らしいらしい。現地からの報告によれば、ロットごとに良いものとそうでないものが分れる傾向にあるようだが、良いものはとびきり良いという。中には、発酵が始まってすぐに、「ワインとして完成された味わい」を見せるようなタンクもあるというから驚きだ。

 収穫年の気候が味わいに反映されることは、欠くべからざるワインの楽しみのひとつである。さて今年は、どんな個性を帯びたワインが生まれるのだろうか。まだ収穫は続く。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。