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連載コラム Vol.57
アメリカ対ヨーロッパ--味覚の違い その2
  Written by 立花 峰夫  
 
 ボルドーのワインは、この30年間で(特に1980年代以降)大幅な品質向上を遂げ、スタイルも変わった。以前よりも熟した果実が摘まれるようになり、若いうちから楽しめるスタイルへとどんどんシフトしてきている。「若いうちはタンニンが厳しすぎて飲めない。10年以上の熟成を経て、ようやく真価を発揮しはじめる」といったかつての典型的スタイルは姿を消し、発売時点から(あるいは収穫翌春の先物試飲時点から)楽しめるワインとして造られるようになった。カリフォルニアなどの新世界ワインに似てきた、と言うこともできるだろう(「ナパ・ボルドー」という言葉があるぐらいだ)。その潮流をつくったのは、故エミール・ペイノーや、ミシェル・ロランといったボルドーの有名醸造コンサルタントであり、また、濃厚で若くから飲めるワインを求める国際市場であった。ロバート・パーカーの影響も、もちろん見いだせるだろう。

 一方でカリフォルニアワインも、より濃厚な風味へと過去30年間にシフトしてきており、1990年代後半以降、その頂点が続いている状態だ。ナパ・ヴァレー産ワインの平均アルコール度数は、1971年には12.5%だったが、現在は14.5%まで上昇している。極端な過熟状態になるまで葡萄を摘まないのが昨今のトレンドで、必要あらば逆浸透膜などのハイテク機器で、過剰なアルコールを低減する措置もとる(それでも平均14.5%なのである)。

 30年前と比べ、両産地ともに濃厚なスタイルへと歩いてきた形だが、両者の距離は昔より縮まったのか、それとも開いたのか。パリ対決30周年記念テイスティングを審査した識者の中でも、意見は割れている。ナパ側の審査員の一人、アメリカ人ジャーナリストのアンソニー・ダイアス・ブルーは、スタイルの面で差が縮まったと見ている。一方、ロンドンで審査員を務めたジャンシス・ロビンソンは、「ボルドー左岸のワインが、過去30年によい方向へと変化したのは間違いないが、カリフォルニアワインの変化についてはなんともいえない。私を含めたヨーロッパ人の審査員は、(若い)カリフォルニア・カベルネの誇張されたスタイルを、まったく評価できなかった」と述べている。

 さて、モンテベロはどうだろう。1971年のアルコール度数は12.2%、2000年は13.4%だった。2003年から1994年まで、過去10年の平均は13.07%。1970年代よりは若干高くなっているものの、ナパのカベルネと比べれば随分低い。酸については、ナパはもちろん、現在の平均的高級ボルドーよりもかなり強い。風味はリッチで完熟しているが、濃厚すぎずエレガント--これがモンテベロのスタイルであり、言うならばボルドー/カリフォルニアの「いいとこどり」なのだ。だからこそ、モンテベロは大西洋の両岸で支持され、驚きの「二階級制覇」を果たせたのであろう。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。