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連載コラム Vol.56
アメリカ対ヨーロッパ--味覚の違い その1
  Written by 立花 峰夫  
 
 パリ対決の30周年記念リマッチでは、若い赤ワインに関する嗜好が、ヨーロッパ人審査員(主にロンドン会場で審査)とアメリカ人審査員(主にナパ会場で審査)との間で、大きく違うことが明らかになった。リッジが出品したモンテベロ2000年については、そのエレガントなスタイルのおかげで意見は割れず、大西洋の両岸で高く評価されている(カリフォルニアの若い赤部門の審査で、ロンドン会場では2位、ナパ会場では1位、総合で1位に輝いた)。意見がまっぷたつに割れたのは、シェイファーのヒルサイド・セレクト・カベルネ・ソーヴィニョン 2001年をめぐってである。このワインは、ナパ会場では高評価を獲得し、モンテベロと同点で一位になっていたものの、ロンドン会場ではダントツのビリ。「ジャムやキャラメルのようで、樽香が過剰、アルコールが目立つ」、「恐れおののいたほど。吐き気をもよおした」など、ヨーロッパ人の審査員からは糞味噌に叩かれている。

 シェイファーのワインは、ロバート・パーカーが世界中に広めた、アメリカ的味覚の精髄とでもいうべきワインだろう。アルコールが高く、とにかく濃厚でパワフル、樽香も強い。パーカーは実際に、このワインに99点という高得点を与えた(ワイン・スペクテイターも95点と高評価)。パーカーが誉めるワインを、英国人ライターがけちょんけちょんに腐すという現象は、決して珍しいものではない。同じことはボルドーでも起きており、2003年のシャトー・パヴィを巡っては、96〜100点という最高の評価を与えたパーカーと、このワインを「欠陥品」呼ばわりしたジャンシス・ロビンソン(および彼女を支援した英国人ライターたち)との間で、激しい論争が巻き起こった。

 一般にヨーロッパ人は、アメリカ人ほど(あるいはパーカーほど)濃厚な風味を好まず、比較的低アルコールで、樽香もほどほどのワインを高く評価する傾向にある。アメリカでは忌み嫌われる植物的な風味(たとえばカベルネのピーマン香)も、ある程度までなら肯定的に評価される。これは、食事とともにワインを飲む機会が多い(かつ、飲む絶対量も多い)、ヨーロッパの食文化に根ざした嗜好だと説明されることがある。

 ただ、この話は想像以上に複雑で、単にアメリカ人とヨーロッパ人の味覚に差があるというだけに留まらない。アメリカのワインも、ヨーロッパのワインも、同じ場所にずっと止まっているわけではないのだ。過去30年間に世界中のワインは、濃厚で若いうちから飲みやすいスタイルへと確実に変化してきた。それをはっきりと示し、今後世界のワインが進むべき方向性について問題提起をしたのが、先日のパリ対決のリマッチであったとも言えるだろう。カリフォルニアのワインは、ボルドーのワインはこれからどう変わり、それは世界でどう評価されるのか。その中でリッジはどこへ進むのか。次回もこの話題を掘り下げる。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。