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連載コラム Vol.54
重要な区別:クローンとフィールド・セレクション(後編)
  Written by David Gates:デヴィット・ゲーツ  
 
 前世紀には、ブドウ栽培を含む農業全般を改良しようとして、世界中で過酷な努力がなされている。政府機関がブドウ品種を収集し、熱処理を行った結果、ほとんどの深刻なウィルス病は除去された。しかし、こうした機関は一つの畑から穂木を取る際に、通常樹を一本しか選ばず、多数の健康な樹から採取を行うことはなかった(多数を選べば多様性が生まれる)。こうした単一の採取元はマザー・ヴァイン(母ブドウ樹)と呼ばれ、そこから無性生殖で繁殖された樹のすべてがクローンと呼ばれる。栽培家に提供するためのマザー・ヴァインが選抜されるにあたっては、収量の高さとウィルス・フリーの状態にあることが優先されており、必ずしも品質については考慮されなかった。当時はそうすることが改善につながると考えられていたのだろう。ヨーロッパでもアメリカでも状況は同じだった。結局、現代的なアプローチによって、新しいブドウ畑は古い畑と比べて遺伝的な多様性を失ってしまった。そこから生まれたワインは、栽培法や醸造法の様々な進歩にも関わらず、複雑性やフィネスを欠くことがあった。多くの人々がそう考えたせいで、この過ちは広く認識されるようになる。大抵の国の政府機関が、今では古いブドウ樹を探し、保存・分析しようとしている。おそらく、いずれは民間でも利用できるようになるだろう。

  リッジでは、ジンファンデルやカベルネ・ソーヴィニヨンの樹を新植するにあたって、古くからある畑のブドウ樹を吟味し、フィールド・セレクションで穂木を採取・繁殖するようにしている。そのほうが、一般に販売されているクローンを用いるよりも良いワインができると思うからだ。フィールド・セレクションで得られた穂木は、我々の(カリフォルニアの)ブドウ栽培の歴史を反映しているもので、だからこそ保存していく価値がある。フィールド・セレクションに付随するリスクをリッジは背負う覚悟があり、出来る限り問題の発生を抑えようとしている。我々はまた、栽培している大抵の品種でクローンの実験も行っている。新しいクローンの中にも、よりよい品質のワインを生むものがないか、確認しようというのである。もしかすると将来には、古い畑からフィールド・セレクションで採取した様々な穂木と、クローンを混ぜて植えるようになるかもしれない。区画全体に、古い穂木と新しい穂木をごたまぜに植えるのだ。こうした「バック・トゥ・ザ・フューチャー(未来へ戻る)」型のブドウ栽培こそが、今日世界中のワイン産地で問題となっている「ブドウやワインの画一化」から、リッジを隔てているのである。
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 David Gates:デヴィット・ゲーツ
 リッジ・ヴィンヤーズ副社長、栽培責任者