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連載コラム Vol.53
重要な区別:クローンとフィールド・セレクション(前編)
  Written by David Gates:デヴィット・ゲーツ  
 
 前世紀の半ばまで、葡萄栽培家が新しい畑に樹を植える際には二つの選択肢があった。自分自身の畑(あるいはその周囲の畑)に植わる最良の樹から、穂木を集めるか。あるいは近所から離れ、苗木商に足を運ぶかである。苗木商も本質的には同じことをしているのだが、スケールが大きいのである。そのようにして出来上がった畑は、フィールド・セレクション(畑での選別の意味)と呼ばれる(フランスではセレクシオン・マッサルと言う)。特定の畑の区画に植わる多くの葡萄樹の中から、それぞれ別々の樹を選び出していくプロセスであるため、「選別」という言葉が使われているのだ。ひとつの区画には、たとえばブルゴーニュのピノ・ノワールのように、一種類の葡萄品種だけが植えられることもあれば、複数の葡萄品種が混ざった状態で植えられることもある。後者の例としては、ガイザーヴィルの畑にある樹齢123年の、「オールド・パッチ」の区画があげられるだろう。そこでは、ジンファンデルの中に、カリニャン、プティ・シラー、マタロ(ムールヴェドル)、アリカンテ・ブーシェ、シラー、グルナッシュ、パロミノほかの品種が混植されている。

  繁殖に用いる葡萄樹を選ぶ際に万全の注意を払い、加えて十分な技術力があれば、フィールド・セレクションという手法は葡萄畑全体の質を高めてくれる。たとえば、選別された葡萄樹の中には、果粒同士が密着しない房をつけるものが含まれるかもしれない。そうした樹は、房に繁殖するカビ病に対して抵抗力がある。ほかにも収量が高め、あるいは低めの葡萄樹があるかもしれず、それぞれ年によっては高品質のワインになりうる。ただ、フィールド・セレクションの最大の問題点とは、葡萄樹を冒すウィルス病が着実に広がっていくことである(たとえばリーフ・ロール・ウィルス。このウィルスにやられた畑は秋になると美しい紅葉を見せてくれるのだが)。こうしたウィルス病の典型的症状とは、成熟が遅くなることで、長期的に見れば畑全体が衰弱していくこともある。ひとたび樹がウィルスに罹患してしまうと、治癒する方法はない。ウィルスのいる葡萄樹から穂木を取って繁殖してしまうと、「子供」にあたる木もウィルスに冒されている。19世紀後半のヨーロッパでは、フィロキセラによって壊滅した葡萄畑が広範に植え替えられたのだが(カリフォルニアも同様)、その時以来ウィルス病が深刻かつ慢性的な問題となっている。収量が減り、ウィルスが樹の体力を奪ったせいで品質も低下した。最高の葡萄畑においてさえ、苗木の質が良くなかったために問題が起きている。今でも古いカリフォルニアの畑を見れば、その違いを目にすることができるだろう。1900年頃かそれ以前に植えられた畑は、比較的健康である。それに対し、1920年代から1950年代にかけて植えられた畑は、通常ウィルスに罹患している。(次回に続く)
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 David Gates:デヴィット・ゲーツ
 リッジ・ヴィンヤーズ副社長、栽培責任者