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連載コラム Vol.52
モンテベロのピノ・ノワール?
  Written by 立花 峰夫  
 
 このたびのパリ対決30周年記念テイスティングで、そのテロワールの卓越性を示したモンテベロの畑。今回は、この偉大な畑にまつわる夢想を少々。
 現在、モンテベロの畑にはカベルネ・ソーヴィニョン、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドといったボルドー品種、ほかにはシャルドネとジンファンデルが植えられている。何かが足りないような気がしないだろうか? そう、ピノ・ノワールである。
 モンテベロの畑からは、きっと偉大なピノ・ノワールが生まれる……こう考えているのは私だけではないはずである。ピノ・ノワールを栽培する上で、好条件が揃っているからだ。まず土壌が、カリフォルニアではとても珍しい石灰質であること。最高のピノ・ノワールを造るためには、ブルゴーニュと同じ石灰質土壌が必要だとする意見は根強い。カレラ・ワイナリーのジョシュ・ジェンセンなどは、石灰質土壌の土地を探して2年もカリフォルニア中を放浪している。彼にしてみれば、モンテベロに「なぜカベルネなんぞ植えているのだ」というところかもしれない。
 そして気候。モンテベロの畑はカリフォルニアではかなり冷涼な部類に入る。積算温度はボルドーとほぼ同じ。ブルゴーニュよりは若干温かいことになるが、それでもピノ・ノワールを栽培する上では問題ない気候である。安定した天候と十分な日照からはフレーバーの完熟した葡萄が得られ、力強くスパイシーなワインが出来上がるのではないだろうか。
 実際、同じサンタクルーズ・マウンテン地区のパイオニアの一人、デヴィッド・ブルースは優れたピノ・ノワールを造ることで名高い生産者である(ただし、デヴィッド・ブルースの畑は石灰質ではなく砂岩質)。時代を溯れば、伝説の巨匠マーティン・レイも同じエリアでピノ・ノワールを生産していた。実績もちゃんとあるのである。
 では、何故モンテベロでピノ・ノワールが造られないのか? 答えは簡単、ポール・ドレーパーはこの葡萄があまり好きではないのだ。「ピノの優れたワインを味わうのはもちろん嫌いではないが、自分で育ててワインにしたいとは思わない」と、話していたのをかつて聞いたことがある。栽培責任者のデヴィット・ゲイツも、同じくピノ・ノワールには興味がない。病気になりやすく、栽培にやたらと神経を使わねばならないのがその理由らしい。アシスタント・ワインメーカーのデヴィッド・テートは、かつてニュージーランドでピノ・ノワールを造った経験があり、「モンテベロにピノを」と願う者の一人である。しかし、「あまり言うとクビになりそうだから」と、彼も及び腰である。
 というわけで残念ながら、今のところはモンテベロにピノ・ノワールが植わる見込みは限りなくゼロに近い。しかしいつの日か……。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生として醸造を経験。