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連載コラム Vol.49
ロバート・パーカーとリッジ
  Written by 立花 峰夫  
 
 現代のグローバルなワイン市場で成功を収めるためには、ロバート・パーカーからの高評価が重要なことは言をまたない。パーカーとは、別名「神の舌を持つ男」−−世界で最も影響力のあるワイン評論家であり、彼が下した百点法での「ご託宣」は、ワインの値段を乱高下させるだけの力がある。
 リッジに対して、パーカーは一貫して好意的に評価し続けてきた。カベルネ・モンテベロに対する評点を見てみても、2001年が96点、2002年が94点+、2003年も94点+と最高レベルの得点が与えられている。パーカーは昨年、『世界でもっとも偉大なワイナリー The World's Greatest Wine Estate』(邦訳未)という、これまでの仕事の集大成とも言える大著を発表し、世界中のワイナリーからベスト・オブ・ベストを選んだ。カリフォルニアからは22のワイナリーが掲載されているが、リッジはその一つであり、「長きにわたり、高級カリフォルニアワインにとっての最高の参照点の一つであり続けてきた」との賛辞が記されている。
 リッジのワイン、特にそのカベルネがいわゆる「パーカー好み」のワインではないことを考えると、ここまでの高評価は不思議である。パーカーが、高アルコールで果実味の強い濃厚なワインを好むのは周知の事実なのだ。とはいえ本人は、繊細でエレガントなワインも、それが高品質である限りは高く評価するのだと反論しており、リッジのワインはその主張を裏付ける好例だと言えなくもない。
 ロバート・パーカーは、低収量、天然発酵、無濾過など、伝統的かつ自然な葡萄栽培・ワイン醸造の擁護者でもある。そうした哲学的側面において、リッジのワインが彼の好みに合致することは間違いないだろう。ただし、ポール・ドレーパーはパーカーに対し、さらに先に進むことを求めている。「パーカーが自然なワイン造りに興味を持っているのは確かだが、少なくともカリフォルニアでは、どのようにワインを造っているかをほとんど生産者に尋ねていない。その結果、工業的な手法で生産されたワインにも高得点を与えてしまっている」と。
 パーカーが決して自説を曲げず、批判を一切受け入れないこと、あらかじめ価格高騰を狙って極少量生産された、「マーケティング主導ワイン」にも高得点を与えること−−こうしたあれこれについても、ドレーパーは批判的である。ただし、同時にドレーパーは、パーカーが首尾一貫して公正・高潔であること(パーカーは、生産者からの施しや広告などを一切受けない)、ワインに対して純粋な愛情を持ち続けていることについては、惜しみない敬意を表している。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生として醸造を経験。