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連載コラム Vol.47
リッジのテイスティング2
  Written by 立花 峰夫  
 
 リッジで行なわれるテイスティングでは、参加者それぞれがワインを評価し、優劣を付けている。ただ、評価といってもいわゆる点数評価ではない。テイスティングに参加する者は、各フライトで供されるワインのサンプルを、同数の「好ましいもの(+)」と「好ましくないもの(−)」に分けるようにする。サンプルが奇数個の場合は、「どちらでもない」を一つ含める。たとえば、サンプルが七種類であれば、+と−が三種ずつ、「どちらでもない」が一種という具合である。極めてシンプルなこの方法は、ポール・ドレーパーが考案したというが、これがなかなかに効果的なのだ。
 ワインの評価方法として、あまりに単純すぎると考える向きもあろう。この方法では、たしかに+グループや−グループの中での優劣が付けられない。しかし、実際のテイスティングに参加してみると、20点法や100点法よりも、この+−法のほうがはるかに使い勝手がいいのに気付くだろう。点数評価に付き物の、恣意性に悩まされることが少ないのだ。
 ワイナリーでの試飲に登場するサンプルには、おそろしくわずかな差しかないことも多い。たとえば、「清澄剤として用いられた卵白の個数が、一樽につき一つ違うだけ」といった比較試飲の場合、たとえ味の差がはっきり感じられたとしても、それを点数に置き換えることは至難である。どちらが好みかは選択できても、その差を2点にするのか3点にするのか……判断根拠は希薄なものにならざるをえず、参加者各々の尺度・基準が揃うことも望めない。たとえばAB二つのサンプルを、二人のテイスターが点数評価するとしよう。一人がBよりもAを5点高く採点し、もう一人がAよりもBを3点高く採点した場合、このフライトではAが優っていたことになる。だが、はたしてこの結果は納得的だろうか? 結局、醸造上の意思決定をするためのテイスティングにおいては、システムが単純なほうが実用的なのである。
 +−の評価でこぼれ落ちる部分は、引き続いてのディスカッションによって補われる。参加者は各サンプルについてコメントを発表し、なぜ+なのか、なぜ−なのかを具体的に説明する。それぞれが微妙に異なる観点・尺度でワインを見ているが、議論によって争点がどこなのかははっきりとする。そして最後に、権限を持つテイスティングのリーダー役(ドレーパーなど)が、評価の集計値と議論の内容を踏まえて判断を下すのである。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生として醸造を経験。