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連載コラム Vol.46
リッジのテイスティング1
  Written by 立花 峰夫  
 
 リッジでは、ワイン造りに関するあらゆる判断を、テイスティングによって決めている。化学分析の数値ももちろん参考にされるが、最終審級となるのは常に実際のワインの味わいである。収穫時期には毎日何度も発酵中のタンクから試飲がなされるし、着席のテイスティングも年中高い頻度で行なわれている(前々回にご紹介したコルク・テイスティングもその一つ)。アッセンブリッジ(ブレンド)のような重要なテイスティングは、専用の部屋で比較的多人数(5〜10人)が参加して行なわれるが、キッチンに二、三名が集まって行なう「気軽」なテイスティングも頻繁にある。
 テイスティングは常にブラインドである。まったくノーヒントでワインが出てくることもなくはないが、テイスティングのテーマは明らかにされている場合が多い(たとえば、「ガイザーヴィルの垂直試飲」といった具合に)。いわゆる単純盲検法である。ポール・ドレーパーは、単純盲検法のブラインド・テイスティングが、客観的な判断を下すうえで最良の方法と考えている。オープンテイスティングでは先入観に左右されるし、テーマも順番も分からない二重盲検になると、情報量が少なすぎて適正な判断ができないというのがドレーパーの結論である。
 また、複数でテイスティングし、議論することがこの上なく重要だともドレーパーは見ている。「一人一人が感じたことを正直に発言し、孤立することを恐れないこと。それができれば、訓練されたグループは、どんなに優れた個人のテイスターよりも良い結論を導くことができる」というのが、ドレーパーの信条である。よって彼は、一定の試飲能力がある人間ならばテイスティングパネルにどんどん入れる。短期間働くだけの研修生でも、テイスティングには参加させてもらえる(これはなかなかないことである)。たまたま訪問していたジャーナリストや流通関係者が、飛び入りで参加する事も珍しくない。
 意思決定を行なうためのテイスティングで、最終判断を下すのはやはりドレーパーだ。だたし彼は、誰のコメントや発言に対しても真摯に耳を傾けるし、気になる点があればメモも取る。疑問点があれば問いただしもする。そこにはうわべだけの「民主主義」ではない、実のある意見交換と弁証法的プロセスがある。参加者全員の見解が、最終結論には反映されているのである。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生として醸造を経験。