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連載コラム Vol.40
リッジのバレル・プログラム 前編
  Written by 立花 峰夫  
 
 樽熟成についても、リッジはユニークな方針を持っている。すなわちアメリカンオークの重用である。「ボルドーのイミテーションを造るつもりはない」と常々言うポール・ドレーパーにとって、アメリカンオークの使用は、アメリカ産ワインとしての根幹に関わる問題なのだ。ただし、風味の面においてもやはり、リッジのワインにはアメリカンオークがよく馴染んでいる気がする。
 ジンファンデルをアメリカンオークで熟成させるのはよくあることだが、高級なカベルネになるとこれは非常に珍しい。アメリカンオークの相対的に強い樽風味が、カベルネの「品格」には合わないと考えられているからだ。アメリカンオークは、ココナッツミルクのような香りを持つ物質、ラクトンの量が格段に多いことが知られる(フレンチオークの2〜10倍)。たしかにこのラクトンの多さは、カベルネのような繊細な風味を持つ品種で問題となることがあるだろう。
 モンテベロのカベルネは原則100%新樽である(ジンファンデルは25%程度)。また、リッジで用いているアメリカンオーク樽は、容量200リットルと一般的なフレンチオーク・バリック(225リットル)よりも小さく、その分樽風味もつきやすい。しかしモンテベロのカベルネには、下品なほど強いラクトン臭はない。これは何故なのか。
 答えは天日乾燥である。樽材を天日乾燥させることで、ラクトンは減少するのだ。アメリカンオークはかつて、窯内で人工的に乾燥させること(キルン乾燥)が一般的だったが、昨今はフレンチオーク同様に天日乾燥させたものが増えている。天日乾燥にはラクトンだけでなく、すべての樽風味を調和した穏やかなものにする効果がある。リッジで用いられるのは、最低2年は天日乾燥させたアメリカンオークである。
 ところで、アメリカンオークはフレンチオークよりも随分安い。フレンチオーク樽は現在アメリカで800ドル近くするが、アメリカンオーク樽なら半分の350ドル。フレンチオークはくさびを打ち込んで製材しないと液漏れが起きるが、アメリカンオークはのこぎりで製材可能。そのために原料のロスが少なく、結果として価格が安くなるのだ。市場には、「アメリカンオークが低価格なのは、低品質だから」という悪しきイメージがあるが、これはまったくの誤解だと言える。天日乾燥した樽材で造られたアメリカンオーク樽は、個性は違えどもフレンチオーク樽と同じぐらいに高品質なのである。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生として醸造を経験。