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連載コラム Vol.38
パリ対決30年
  Written by 立花 峰夫  
 
 タイム誌のジョージ・テイバーが、“the unthinkable happened: California defeated all Gaul”(「考えられないことが起きた。カリフォルニアがフランスをことごとく打ち負かしたのだ」)と記したパリ対決(注)から、来年でちょうど30年となる。テイバーはこの秋、当時のタイム誌に掲載された記事と同じタイトルを持つ書籍、『Judgment of Paris』(パリの判決)を上梓したところだ。来年には、30周年記念イベント&テイスティングも予定されており、パリ対決の主催者スティーヴン・スパリュアと、歴史的勝利の立役者となったカリフォルニアの造り手たちが集まることになるかもしれないという。
 パリ対決に出された6本のカリフォルニアの赤の中で、リッジのモンテベロ1971は、栄冠に輝いたスタグス・リープ・ワイン・セラーズのカベルネ1973に続いている。フランスワインを含めた総合順位では、二位のムートン1970、三位のオー・ブリオン1970、四位のモンロース1970に続いての五位である。スパリュアは、準備段階での試飲において、カリフォルニアの赤の中ではリッジが一番印象的であったと回想録に記している。そこで、「カリフォルニアワインが勝利することがないよう念を入れるため」、フランスワイン勢をムートンやオー・ブリオンといった最強の布陣にしたのだという。スパリュア自身も、カリフォルニアワインを勝たそうとは思っていなかったのだ。
 2年ほど前に、このモンテベロ1971を試飲する機会にめぐまれた。ワイナリーにすら、もう数本しか残っていない貴重なボトルである。現在のモンテベロと比べると、多少の荒さがあるようには思われたものの、特有のスタイルは同じである。30余年が経過したあとですら、見事なバランスとテロワールの風味を保持する見事な古酒であった。
 30年前、誰にも顧みられていなかったカリフォルニアは、今では世界最高の産地の一つとして評価を確立した。100ドル以上の値段のついたカベルネの数を単純比較するなら、現在ではカリフォルニアがボルドーに優っている。もちろん、パリ対決だけが今日のカリフォルニアの隆盛を用意したというわけではない。とはいえ、このイベントが大きなブレイクスルーとなったことは間違いないだろう。「自分たちもメジャーリーグで通用するのだ」という自信を、カリフォルニアの造り手たちに与えたのだから。
 スパリュアがかつて店を構えていたマドレーヌ広場の近くには、現在パリで最高の品揃えを誇るワインショップ、「ラヴィーニャ」がある。この店には今、モンテベロのバックヴィンテージがショーケース内にずらりと並べられている。

注)パリ対決
パリの地でワインショップおよびワイン学校を経営していた、イギリス人のスティーヴン・スパリュアが、アメリカ独立200周年記念のイベントとして企画した歴史的なブラインドテイスティングのこと。最高クラスのボルドー赤/ブルゴーニュ白と、スパリュアが選んだカリフォルニアのカベルネ/シャルドネを、フランスワイン業界のそうそうたる重鎮たちが試飲・審査した。誰もがフランスの勝利を信じて疑わなかった中、白ではシャトー・モンテレーナのシャルドネ、赤ではスタグス・リープ・ワイン・セラーズのカベルネがそれぞれ一位に輝いた。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生として醸造を経験。