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連載コラム Vol.27
モンテベロのテロワール その4 土壌(化学的組成)
  Written by 立花 峰夫  
 
 土壌の化学的組成とは、土壌に含まれる元素の種類と量を指す。ワインの世界では昔から、土壌中の特定元素がワインの味わいに与える影響が盛んに語られているが、こと科学的根拠に関する限り、このフィールドでは何も分かっていないのに等しい。
 ただし、分からないなりにいくつか考えるべき要素はある。まず土壌のpH(酸性・アルカリ性)。元素の種類や量によって土壌のpHは決まってくるのだが、モンテベロの土壌のpHは6-7という中性付近の数字であり、植物の栄養摂取や土壌中の有益な微生物活動が最も盛んとなる範囲に収まっている。
 カルシウムの影響が次に考慮すべき点である。モンテベロの石灰岩土壌にはカルシウムが大量に含まれている。カルシウムには、黒葡萄の着色を助ける効果があることが知られているほか、前回のコラムでも触れたように、土壌の破砕性を高め、重めの土性を持った土壌の構造を優れたものにするという効果がある。
 ただリッジの人々は、石灰岩土壌中に含まれるカルシウムには、これ以上の効果があるのではないかと推測している。科学的根拠云々ははっきりしないのだが、経験則に基づく仮説があるのだ。モンテベロの赤の典型的な特質とは、強い酸やミネラル風味といったものだが、これはカルシウムを多く含む区画の葡萄にしか現われないという。
 モンテベロには合計で34のブロックが存在する。その土壌組成はかなり均一なのだが、中には石灰岩が基岩となっておらず、土壌中のカルシウム含有量の少ない区画がある。そうした区画からできるワインを、隣接するカルシウムを多く含む区画のワインと比べると、一貫して味わいの差が観察されるらしい。土壌以外には条件の差がないにも関わらず、カルシウムの少ない区画は酸がいつも低く、ミネラル風味が少ないのである。
 栽培責任者のデヴィッド・ゲイツは、「この点については、今後更に究明を進めていくつもりだ」とコメントをしている。その仮説の科学的根拠が、明らかになる日がやってくるのかどうかは定かではない。ただし、石灰岩土壌をも含めたモンテベロのユニークなテロワールの全体が、そのユニークなワインのスタイルを生んでいることは異論のないところだろう。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生として醸造を経験。