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連載コラム Vol.24
モンテベロのテロワール その1 気候
  Written by 立花 峰夫  
 
 モンテベロのカベルネは、典型的なカリフォルニアのスタイルからは大きく外れた特異なものである。
 まずアルコールが低い。ナパのカベルネが一般に13%代後半から14%代にかけてなのに対し、モンテベロは12%代後半から13%代である。酸が強いのもその特徴であり、モンテベロのpHはだいたい3.6前後(pHは7が中性で、数字が小さくなるほど酸性度が強くなる)。今日のナパやボルドーのカベルネは、pH3.7-3.8が普通、年によっては4を超えることも珍しくないから、モンテベロは相当に酸っぱいカベルネということになる。
 低アルコール、強い酸とくると未熟な葡萄をつい想像するが、そんなことはないのだ。モンテベロでは生理学的成熟を迎えてから葡萄が摘み取られるから、果実味は充分でタンニンは滑らか。これが熟成に用いられるアメリカンオークの風味と相まって、「エレガントだが骨もあり、かつエキゾチック」という独自の味わいにつながっている。
 こうした特徴は、山中の葡萄畑のテロワール、とりわけその気候と土壌に由来するものである。他の産地との目に見える比較がしやすいのは気候であるから、まずはいくつか関係する数字を見ておこう。
 生育期間中の気温の高さを示す積算温度数値を比べてみると、モンテベロは2400-2500、ボルドーで2500前後、ナパのオークヴィルで3300、セント・ヘレナで3800となっている。つまり、モンテベロの気温はほぼボルドーと同じ。ナパと比べての酸の強さ、アルコールの低さは、まずこの冷涼な気候のためだと考えられる。
 冷涼とはいえ、夏から秋にかけての葡萄の成熟期に雨がまったく降らないカリフォルニアでは、ボルドーよりもずっと日照時間が長いから葡萄は成熟しやすい(ボルドーの年間日照時間が約2100時間なのに対し、カリフォルニア沿岸部は約2900-3400時間)。また、秋雨がないために理想の熟度に達するまで収穫を待つことも可能である(ボルドーでは9月、10月合計で平均170〜180ミリの降雨があるのに対し、モンテベロでは10月末に30-40ミリ程度の降雨があるのみ)。モンテベロの充実したフレーバーは、こうした条件から生まれてきているに違いない。
 ただし、気候条件だけでは説明がつかないのが、酸とミネラル風味の強さである。ボルドーと気温はほぼ同じ、日照量は豊かなのに、何故酸やミネラル風味がボルドーより強くなるのか。リッジの人々は、石灰岩土壌にその秘密があると見ている。次回以降、モンテベロの土壌について解説していこう。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生として醸造を経験。