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連載コラム Vol.21
リッジのワイン造り、その核心
  プレスその2 フラクション分割
  Written by 立花 峰夫  
 
 さて、プレス作業の本番である。設備は一般的な空気圧プレス(シリンダーの中に貼付けられた柔らかい膜が風船状に膨らんで、葡萄を搾る方式のプレス機)で、圧搾圧力は最大約2気圧。プレスワインは圧搾圧ごとに細かく分割され(フラクションを呼ぶ)、別々に樽熟成されてブレンド用のパーツとなる。フラクションは最大5つにも上ることがあり、ここまで細かく分けているワイナリーは珍しい。
 まず、発酵タンクからフリーランワインを引き抜いた後、半日ほどタンクからじわじわと流れでてくる「タンクドレイン」。次が、プレスに果皮を入れてからそのフタを閉めるまでに流れ出る「プレスフリーラン」。この二つは、フリーランワインの延長線上にあるものだが、少しずつ性質が異なっている。
 プレス機で圧力をかけて取るワインは3つに分割され、まず0.15気圧という超低圧で搾る「ファーストスクイーズ」。次が0.15から1気圧までの「プレス1」。最後が2気圧までの「プレス2」である。それぞれのフラクションは、その味わいによってAB二段階の品質評価を与えられる。
 フラクションを分割する理由は、同じ葡萄からのプレスワインであっても、圧力毎に風味が異なるからである。圧力が強くなるほど、タンニンなどフレーバーは強くなり、同時に雑味も強くなるというのが一般的傾向なのだが、例外が存在するのが面白い。通常、プレスワインは低圧のものほど質的には優れていると考えられているが、リッジのワインの場合、最も低圧のファーストスクイーズの品質が一番低くなる。
 実際に試飲してみると、確かにファーストスクイーズは水っぽく青臭いのだが、何故そうなるのかはよく分かっていないらしい。ただし、タンニンの値などを測る化学分析では、ファーストスクイーズが最もリッチなフラクションという結果が常にでるそうで、不思議なことこの上ない。まだまだ化学分析ではカバーできない要素が、ワインの味わいには多く残されているのだろう。 こうしたあれこれも、プレスワインを細かく分割することによって初めて見えてきたこと。いいものと悪いものを分けて管理することは、現代のワイン造りにおける最も重要なポイントの一つである。リッジにおけるその徹底ぶりは、このプレス作業にも表われている。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生として醸造を経験。