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連載コラム Vol.200

2012年ハーヴェストレポート 4

  Written by 立花 峰夫  
 
 2012年のハーヴェストは、カリフォルニア中が豊作・高品質の喜びに沸き立つ中で無事収量した。大塚食品の醸造家 黒川信治氏の現場レポートも、今年はこれで締めくくりとなる。

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 10月20日をもって2012年のモンテベロワイナリーにおける収穫は終了した。2012年は一言で言うとグレート・ヴィンテージを予感させる年であった。

 ここで、その21012年を振り返ってみることとする。

 2012年は、春が温かく、ここ数年にない幸先のよいスタートを切ることが出来た。 初夏までのほぼ理想的な天候から、収穫時期が早くなると予想されたが、8月の気温がそれ程高くならなかったことで生育速度が失速した。9月の穏やかな天候と順調な結実により、ブドウは後一歩で成熟というところで長い期間停滞した。太平洋の沖合に居座った大型の高気圧の影響で、10月1日から2日にかけて、カリフォルニア州沿岸部の広い範囲で2012年の最高気温の記録を更新。このヒートスパイクが、長く続いていた停滞状態をブレイクして、ほぼ全ての畑で一斉に収穫を迎えることとなった。木の上でじっくり成熟することが出来た赤ワイン用のブドウは、しっかりしたタンニンと深い色と豊かな香りを獲得できた。過熟ではなく適度な熟度で収穫されたブドウのお陰で、アルコール度数の高いワインとは違った力強さを秘めたエレガントな長期熟成向きのワインとなっている。

 2012年のもうひとつの特徴は、開花時の天候が概ね順調であったことで、結実が良く、収穫量が多くなっていることである。その収穫量の多かったブドウが上記のように一度にワイナリーに持ち込まれたことで、発酵タンクが無くて困ったというのが2012年の最大の問題であった。また、このような時に限って「タンニンの抽出は早いが、発酵速度が遅いという」何年かに一度起こる現象が並行して起こったことも、この問題を難しくした。ナパを含めたカリフォルニア全域でも同様のことが起こっており、多くのワインメーカーが「今年一番の問題はブドウが同時に収穫、更に収穫量が予想を上回ったことで発酵タンクと樽が不足したことだった」とコメントしている。ワイン・インスティテュートによれば、2012年のカリフォルニアのワイン用ブドウの収穫量は370万トンと収穫量の少なかった2011年の330万トンを12%上回っている。RIDGEにおいては、開花時の強い風の為、結実が悪かったカベルネ以外は、全ての品種で昨年に比べ3割以上収穫量が多くなっており、ジンファンデルに至っては5割増であった。昨年比でマイナスとなったそのカベルネでさえ、ここ10年の平均を上回る豊作のヴィンテージであった。

 今年、最初のクラッシュの折、稲光が見られ、この雷は豊作の吉兆か否かと「2012年ハーヴェストレポート1」で触れたが、どうやら豊作の吉兆であったようである。そして、RIDGEでは、2012年にもうひとつ吉兆と言える出来事があった。それは、9月にRIDGEのCEO兼ワイナメーカーであるポール・ドレーパー氏に初孫(男の子)が生まれたことである。2012年のモンテベロは、非常にしっかりしたタンニンとエレガントな酸味を持つワインとなっているので、彼が成人する頃には、素晴らしいワインになっているであろう。ポール・ドレーパーにとって、2012年は忘れられないグレート・ヴィンテージであることは間違いない。そのグレート・ヴィンテージに生まれた彼とワインの吉兆を祈願して今年のハーヴェストレポートを終えることとする。

2012年11月16日 黒川信治


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