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連載コラム Vol.2
Who's Paul Draper ? -生い立ち〜学生時代
  Written by 立花 峰夫  
 
   ポール・ドレーパーは、1936年3月に生をうけ、アメリカ中西部イリノイ州の農場で育った。都会的な雰囲気が強い現在の彼を思うと、少々意外な生い立ちかもしれない。父は元投資銀行家で、自給自足の生活を夢見て農場を開いた人物である。ポールは幼い頃から父の仕事を手伝い、馬の面倒や野菜の世話をしていたという。工作好きで、ダムの建設技師になることを夢見る少年だった。
 自然との結びつきやモノ造りへの意志は、この幼年時代に育まれたものだと想像されるが、ポールがワインに興味を持つのはもう少し後のことである。彼の両親は特別な日にしかワインを開けず、それは身近な存在ではなかったのだ。
 高校生になったポールは、東部コネチカット州の有名進学校チョート・スクールに入学する。同室のスイス系アメリカ人の友人宅でよく食事をしていたのだが、その家では毎夜ワインが酌み交わされていた。この友人宅での体験が、彼のワイン人生の最初のステップとなる。豊かな人生の象徴として、食卓に彩りと笑いを添えるワインという存在に、ポールは次第に心惹かれるようになる。
 高校を卒業したポールは、カリフォルニア州のスタンフォード大学に進む。スタンフォードは日本でいう慶応のような名門校。専攻は実存主義哲学だったが、専門分野だけでなく、倫理学、美学、政治学、ドイツロマン主義文学…と幅広い分野を手当たり次第に学んでいった。ワイン業界きってのインテリを造ったのは、生まれながらの強い知的好奇心である。
 ポールのワイン好きは、大学時代に本格的に火がつく。イタリア料理店に行っては当時有名だったカリフォルニアワインを次々に飲み、熱心にノートをとる。ワインのもつ地中海的/ラテン的/ディオニソス的な側面に夢中になったのだそうだが、この当時のポールは、将来ワイン造りを生業にできるとは少しも思っていない。「単純に、化学の知識が足りなかったんだよ」と。
 大学3年の春、ポールは初めてのヨーロッパ旅行に出かける。船でナポリに着いたあと、モト・グッチ(イタリア製の有名なオートバイ)を買い、大好きなフェリーニの名作『道』のルートを辿りながら旅をした。ほかのヨーロッパ諸国にも足を伸ばし、旅は6ヵ月にも及ぶ。地中海沿岸のラテン的な暮らしがすっかり気にいってしまった彼は、大学卒業後に再度ヨーロッパで暮らすことになる。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生として醸造を経験。