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連載コラム Vol.197

2012年ハーヴェストレポート 1

  Written by 立花 峰夫  
 
 2012年もハーヴェストが始まった!これから約2ヶ月、ワイナリーは猛烈な忙しさの中で高揚感に包まれることになる。現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治氏からのレポートの第一弾をお届けする。

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 9月5日、パソロブレスにあるデューシィ・ランチから、2012年の収穫が始まった。

 2009年には、日本を襲った台風が太平洋を横断して10月13日にもたらした嵐、2010年には冷夏と8月下旬の2日間の酷暑日による高温傷害、そして2011年には9月中旬という非常に遅いスタートにもかかわらず10月初旬の雨。というように非常に難しい年を3年続けて乗りきってきた後の2012年は、穏やかな幕開けとなった。

 この3年間は春が寒く葡萄の生育期が遅れて始まっているが、2012年は穏やかな春からスタートしている。開花は5月下旬と平年並みかやや遅めであったが、穏やかな6月を迎え、順調に推移していった。このままいけば8月下旬に収穫が始まると言われていたが、夏の気温が思いの外、上がらずに収穫が9月に持ち越された。特に8月の気温が平年よりわずかに低めで、気温の跳ね上がるような暑い日がほとんど無かったこともあり、熟成がじっくり均一に進み、良い状態の葡萄になっている。ここまで、パソロブレスが3回、ソノマ地区からマゾニ葡萄園の葡萄が収穫されているが、今のところ同じような良い傾向が続いている。(9月16日現在)

 今年の特徴のひとつが、熟成を前に畑で足踏みをしているところである。ガイザーヴィルのウィットン・ランチの葡萄は、マゾニと一緒に9月12日の収穫を検討した程であったが、実際の収穫は、このレポートを書いている17日となった。これは、木の上で最後の熟成が非常にゆっくり進んでいる証拠であり、これにより色やフレーバーがしっかり蓄えられ、長期熟成タイプの葡萄になっている。また、今年のもうひとつの傾向として、モンテベロのカベルネの熟成が平年より早いことである。現時点でベレゾンが終わっているので、この穏やかな秋の気候の恩恵を受け、3〜4週間先には、こちらも香りのしっかりした葡萄になりそうな気配をみせている。

 9月7日に収穫されたパソロブレスの南側の畑の葡萄の状態は、良いヴィンテージの時に見られる「小粒で、色合いがしっかりした」ものであった。パソロブレスの葡萄は高い確率で干しブドウが見られるのだが、その比率はいつもより少なく、熟成がまばらなジンファンデルにしては足並みが揃っていた。本日17日に、そのタンクF21のプレスを行ったが、非常にリッチで味わい豊かな素晴らしい出来に驚いている。

 本日のウィットンとフレッドソン(どちらもガイザーヴィルの一画)を皮切りに畑で足踏み状態になったジンファンデルが、明日以降続々と収穫される予定である。今日の葡萄も質が良く、F21のようなポテンシャルを感じさせてくれている。

 今年最初のクラッシュをしているとき、少し離れたところで稲光とともに雷が鳴った。RIDGEのクラッシュ・ステーションは外にあり、それも周りに建物はほとんどなく、山の上に露出した金属に囲まれている。そのため、一瞬恐怖心が目覚めたが、幸い雷はしばらくして遠ざかっていき、事なきを得た。日本では「雷が鳴ると豊作」と言われる。これは、「稲光」「雷(雨に田)」というくらいだから、稲のことを言っているのだと思うが、この説は雷鳴時に空気中に放出される窒素酸化物が植物の生育に効果があってのことと聞いた事がある。葡萄には関係ないかもしれないが、豊作(というより良作)になってくれる吉兆であるか、今年も波乱に巻き込まれる前兆であるか、神のみぞ知るところである。ここまで順調に来ただけに、今年こそ今後の天候に恵まれることを願って、収穫の初日を終えた。

2012年9月17日 黒川信治


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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。