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連載コラム Vol.195

高貴なワイン: カリフォルニアの観点から その3

  Written by 立花 峰夫  
 
 先日の国際ワイン学会(Academie International de Vin)において、ポール・ドレーパーが行った講演の翻訳、今回が最終回である。今年の学会テーマは、「高貴なワイン Noble Wine」であった。

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 カリフォルニアはおおむね、ブドウ栽培にとって条件のよい気候です。5月下旬から9月下旬まで、ほとんど雨が降りませんから。雨によって収穫物が大きなダメージを被るのは比較的稀ですが、例えば2011年にはナパ・ヴァレーほか数地域でそうした被害が出ました。カリフォルニアでは、2011年までの3年間にわたって、近年で最も涼しい年が続いています。コンピューター・モデリングによる予想によると、今後カリフォルニアの気候はこれまでよりずっと変動が大きくなるようなのですが、必ずしも温暖化が進んでいるとは言えません。

 この好ましい気候条件を考えるなら、慣行農法に別れを告げることは、他の多くの産地よりも容易いと考えられます。とはいうものの、セラーにおける化学薬品の使用や、激しい人為的介入に対しての姿勢については、生産者ごとに大いに異なるでしょう。

 カリフォルニアの醸造家の殆どがかつてそう教えられ、多くが今も信じているのは、化学薬品やワイン加工用機器類の詰まった「道具箱」が、ワインを造るうえでは不可欠だというものです。これは、禁酒法の13年間のせいと言える部分がありまして、ブドウをワインに変える自然のプロセスについての基本的な理解が、この期間にカリフォルニアのワイン造りから失われてしまったためです。とはいえもちろん、良質のワイン、卓越したワインを造るためには、この自然なプロセスの導き手となる醸造家の経験と、注意深い観察が常に必要となるのですが。

 カリフォルニアの醸造家(ワインメーカー)の多くが、「ワインを造る人」という意味のその肩書を、文字通りに受け止めてしまっています。自分が手がけるワインの個性や品質を、「造り出す」のが自分の仕事だと信じているのです。そのため、優れた個性を表現できるはずのテロワールのブドウを使っていても、現在ではワインの個性が、畑そのものよりもワイン造りからもたらされていることがしばしばあります。とはいえ幸いなことに、ワインの味はかくあるべしと自分の考えを押しつけない醸造家たちも、カリフォルニアにはたくさんいるのです。こうした造り手たちはブドウをよく眺め、ブドウ自身がワインの中で表現するように仕向けています。生産者仲間にどんなワインを見せるかによって、その醸造家がどちらのアプローチを選んでいるかが伺えるでしょう。土地や自然なプロセスへのこの結びつきに興味を持つ人々が増えれば、今後卓越したテロワールがもっと見つけ出され、卓越したワインが生まれるチャンスも増えていくはずです。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。