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連載コラム Vol.194

高貴なワイン: カリフォルニアの観点から その2

  Written by 立花 峰夫  
 
 前回に引き続き、先日の国際ワイン学会(Academie International de Vin)において、ポール・ドレーパーが行った講演を訳出する。今年の学会テーマは、「高貴なワイン Noble Wine」であった。

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 土地の個性を持つ優れたワインの場合には、もうひとつ義務が課せられており、それは「真正」でなければならないということです。ワインが「真正」だといっても、なにも他のワインが「偽物」であるという意味ではありません。「自然」なワインという言葉にも同じようなニュアンスが含まれている場合があり、すなわち他のワインが「自然ではない」というほのめかしです。私がここで言いたい真正さとはもっと狭い意味で、ブドウが育ったテロワールを裏切らないということでしかありません。土地に対しての真正さというわけです。世界中のどこででも言えることですが、ブドウ畑の持つ潜在的な品質可能性が突きつめられたことがないなら、その畑でどれだけ優れたワインが生まれ得るかは誰にもわかりません。その可能性とは、高品質を目指したブドウ栽培に始まり、適度な収量に抑えるための剪定をきちんと行うかどうかにかかっています。ブドウが成木に達した段階で、そこのブドウがどの水準の品質を、際立った個性を毎年示せるかが決まります。

 19世紀後半から20世紀前半までの時代は、畑とセラーの両方におけるほとんどの作業が、今日我々が持続可能なアプローチや有機的アプローチと呼ぶものに近かったと思われます。現在、慣行農法と呼ばれているものより近かったということです。ところが、カリフォルニアでは1940年代から、ヨーロッパでも第二次大戦後になるとはっきりと、現代的なテクノロジーのワイン造りへの適用が急激に進むようになりました。畑、セラーの両方に化学物質がやってきました。畑で使われ出した機械は、性能が良いだけでなくブドウにも優しいものでしたが、セラーで用いられた機械のほうは、性能こそ優れていても、ブドウには優しくないものがありました。

 優れたワインを造ろうとする人々は、畑での工業化学薬品の過度の使用を懸念し、ワインそのものの品質や健康は言うに及ばず、ブドウ樹と土壌の健康を心配するようになりました。その結果として、より持続可能な農法や、有機栽培やビオディナミが用いられだしたのです。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。