Archives
連載コラム Vol.193

高貴なワイン: カリフォルニアの観点から その1

  Written by 立花 峰夫  
 
 これから合計3回で、先日開催された国際ワイン学会(Academie International de Vin)において、ポール・ドレーパーが行った講演を訳出する。今年の学会テーマは、高貴なワイン Noble Wine」。ドレーパーは、カリフォルニアワインの視点からこのテーマについて持論を語っている。

********************************

 私たち旧植民地の住民は、ヨーロッパの王室、とりわけイギリス王室に対する憧れがあります。にも関わらず、アメリカ人は「高貴な」、「高貴さ」という言葉をそもそもあまり使いませんし、ワインやテロワールを議論する際に、これらの語が用いられることはほとんど皆無です。その理由は、アメリカ市場において私たちが、ワインの持つエリート的なイメージを払拭しようと躍起になっているところにあるのかもしれません。いずれにせよ、私は「高貴なワイン」と言う代わりに、「土地の個性を持つ優れたワイン」という言葉を、「高貴なテロワール」と言う代わりに、「優れたテロワール」という言葉を使いたいと思っています。

 ワインの第一にして欠くべからざる義務とは、飲み手に悦びを与えることだと私は信じています。お値ごろな日常消費用ワインに用いられるブドウの品質が、ワイナリーにおけるあれこれの手助けなしには、悦びを与えるところまでいかないような場合を考えてみましょう。ワインを必要なレベルまで引き上げるために、化学物質を添加したり、ワインに強い干渉的加工をしたりすることは、正当化されると私は考えます。今日、世界で造られるワインの90%以上は、工業的手法によるものだと聞きます。つまり、世界で飲まれているワインの大半がこうしたものだということです。ですから、並の品質のブドウからワインを造るときに、先に述べたような必要な介入をすることは、全く問題ないでしょう。

 有機栽培、ビオディナミ、減農薬栽培、あるいは法的な条件をクリアした慣行農法の場合でさえも、栽培家が作物に使える農薬の種類、防除の方法などには制限が課されています。どういった農法を選ぶかによって、制限の大きさに差はありますが、誰もが一定の枠の中で動いているのです。

 同様に、ワイン醸造家も、セラーでブドウをワインに変えるにあたって、どんな種類の添加物を加え、どんな種類の処置や加工を行うかについて、常に選択をしています。

Archives
 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。