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連載コラム Vol.189

モンテベロのアッセンブリッジ 2011 その5

  Written by 立花 峰夫  
 
 だが、最後にまだ大変なテイスティングが残されていた。新しく生まれた2011年の第一アッセンブリッジと、過去3ヴィンテージのモンテベロを比べる「ブラインド・テイスティング」である。比較対象となったのは2010(樽抜きサンプル)、2009(未発売だが瓶詰めは済)、2008(発売中の現行ヴィンテージ)の三つ。これは、我々が皆揃って視野狭窄に陥り、狭い視点でワインを判断するという致命的なミスを犯していないか、味の隘路に迷い込んでいないか、2011年だけの世界に入り込んでしまっていないかを確認するためであった。他に目がいかず、自己満足に陥り、モンテベロの歴史から外れていないかどうかを確認するために。

 ブラインド・テイスティングだったから、勿論どのワインがどのヴィンテージであるかを推し量るのだが、2011年が、歴代のモンテベロと並べて遜色ないかを確認するという目的もある。視点を変えてワインを見るために、私はちょっとした実験を自分で行ってみた。まず、香りだけでヴィンテージの推定を行う。並んだグラスの左から右への順に、2008、2011、2010、2009だと考えた。次に味だけを見て同じことを行うと、今度は年代順、つまり2008、2009、2010、2011の順になった。そして結果発表。ブラインドが上がると、味に基づいて下した判断が正しかったとわかった。香りによる推定のほうは、4つのうち2ヴィンテージのみが正解。ここから私に分かったことが二つあり、まず、まだ風邪が完全に治っておらず、鼻のコンディションが万全ではなかったこと。もうひとつは、歴代のモンテベロの中に含めた2011年が、そこにいるのに相応しい出来ばえだったことである。力強く凝縮感があり、味わいは深くフルボディ、そして複雑なのだ。

 私はどうだったかって? くたくたに疲れきって、ぐったり、へとへとであった。だが同時に、陽気な興奮状態にもあり、有頂天にもなっていた。長い一日であり、ワインも長い熟成に耐える出来だった!

 このワインが(アメリカで)発売されるのは2014年になる。その後、あなたのセラーでどれぐらい寝ることになるだろう。10年? 20年? 30年? このワインの潜在性が完全に開花するのは、2044年頃かもしれない! ツイていれば、私はその頃まだ老人としてこの世にいるだろうし、できることならまだ元気でいたい。情熱を失わず、若き日の勢いに、年を重ねたことによる智恵を加えた、そういう人間になっていられればと思う。このアッセンブリッジ(ブレンド)に参加した者全員が、そんなふうになっていることを願う。全員が2044年、いやその先まで生きていられるだろうか。若い頃のほとばしる情熱と、落ち着きと智恵に満ちた晩年の魂を、共に備えていられるだろうか。

 みなさんがこのワインを飲む頃、モンテベロ2011はまさにそんな味わいになっているだろう。若き日の魂と円熟の魂が両端にあり、その間には歳月が横たわっている。

 最後に、李白の漢詩『月下獨酌』の一節を引用しておこう。

 賢聖既己飲  聖人も賢者も酒を飲むのであるから
 何必求神仙  この上、仙人などは必要ない
 三杯通天道  三杯飲めば天の道理に理解が及び
 一斗合自然  一斗飲めば宇宙の原理とひとつになれる
 但得酒中趣  ひたすらに酒に酔うことを楽しもうではないか……


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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。