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連載コラム Vol.185

モンテベロのアッセンブリッジ 2011 その1

  Written by 立花 峰夫  
 
  去る2月上旬に、昨年秋に収穫されたモンテベロ赤の最初のブレンド(第一アッセンブリッジ)が行われた。モンテベロのアッセンブリッジについては、過去にも2007年ヴィンテージについて本コラムでレポートしたことがある。今年は、リッジのオフィシャル・ブログの執筆者であるクリストファー・ワトキンス(リッジ小売部門マネージャー)による、2011年ヴィンテージについてのレポートを数回にわたって掲載しよう。

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この日も山の頂上は美しく、歴史を造る日にはうってつけだった。



朝日を背中に浴びながらワイナリーへとやってきて、宝石が眠る半地下のモンテベロ用樽熟成庫に足を踏み入れた。



樽熟成庫の向こう側には、明るい事務室と廊下が見え、その先に今日の会場となる部屋がある。すべてがこれから起きる、小さな礼拝所ともいうべき部屋。自信たっぷりで部屋に入ったわけではない。初めて参加したときに感じたほど、絶望的な恐怖には捉われていなかったけれども。「前にもやったことがあるから大丈夫、前にもやったことがあるから大丈夫……」と、心の中で呪文のように繰り返し唱える。再びこのプロセスに参加できるのは嬉しかったし、情緒不安定になるほど緊張していたわけではなかった。だが、それでもまだ畏怖の念は覚えていたし、これからも消えることはないだろう。



部屋は、去年の同じ頃からまったく変わっていないように見えた。グラスはピカピカに磨きあげられており、木製のテーブルはとても重々しく、どっしりとした安定感を部屋にもたらしている。籠には一杯にパンが盛られており、カットされたチーズの横には光るナイフが添えられている。浅い白皿には美味なるオリーブオイルがとろりと横たわっており、傍らにある黒い艶消しカウンターの上にはワインが並んでいた。



まるで1エーカーほどの広さがあるように見えるカウンターは、無限に広がっているようだった。ビーカー、ボトル、グラスがずらりと並んでいる。そうした道具類の上を舞うのは、蝶のようにひらひらと動く指先を持つ醸造責任者のエリック・ボーハー。猛烈な集中力で動き回る彼の姿、軽々とリズミカルに微妙な動作をし、手で不思議なダンスを踊り、ほんのわずかなエネルギーも無駄にしない様を眺めていると、妙な考えではあるものの、昔のトゥナイト・ショーでジョニー・カーソンとともにグラスハープを演奏する、ジェイミー・ターナーのことをなぜか思い出した。グラスの海の上で舞う彼は、美しくも奇妙な独特の音楽を奏でていたのだ。



この日は、モンテベロの第一アッセンブリッジ・テイスティングの二日目であった。初日の首尾は上々と聞いている。中心となる二十四の区画から十三のロットが選ばれたのだが、これだけの数になったのは近年初めてで、もしかすると史上初かもしれない。しかもこれは、2011年のワインなのだ。カリフォルニア中で、さんざんだったと評判の年である。数多くあるリッジ流の特異性のひとつなのだが、最も難しい年にこそ、我々のワインは最も風味成分が凝縮し、ほとんどありえないほどの高い品質水準に恵まれるのである。





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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。