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連載コラム Vol.180

ポール・ドレーパーへの10の質問 その2

  Written by 立花 峰夫  
 
 リッジ・ヴィンヤーズの総裁ポール・ドレーパーに向けられた、10のQ&Aの第二回である。質問者は、ブラジルにおけるリッジの正規輸入代理店ミストラル社のRodrigo Mainardi 氏。原文はリッジの公式ブログに2011年8月に掲載された。

<質問3>
 近年、カリフォルニアでは新しいカルトワインが幾銘柄か登場していて、そのほとんどがボルドーの一級よりも値段が高い。こうした新たなカルトワインと、モンテベロの違いは何か?

<回答3>
 ボルドーにおけるガレージワインと同じく、カリフォルニア産カルトも高級ワイン業界においてはたいしたものではない。こうしたカルトワインはたいてい過熟ブドウから造られていて、アルコールが15%以上あるような重たいワインになる。あまり熟成しないから、若いうちに飲んでしまわなければならない。一方、モンテベロはしっかり酸を残した完熟ブドウから造られていて、二十年以上は味が向上するし、通常は三十年以上美しく熟成する。



<質問4>
 あなたは、現存する数少ないアメリカンオークの信奉者の一人だ。人々はアメリカンオークというと、ココナッツと甘いヴァニラ風味を想像するが、あなたのワインはとてもエレガントである。アメリカンオークを使っていながら、どうやってあのエレガントなワインを造れるのか。また、アメリカンオーク樽を使う利点とは何なのか。

<回答4>
 19世紀、ボルドーの一級シャトーが集まって、複数の産地のオーク材を使った長期にわたる実験を何度か行ったことがある。当時の一級シャトーは、バルト海で採れたオーク材をワインに使っていた。10年にわたる実験結果はいつも同じであり、まずバルト海の三つの産地、リガ、ステッティン、ルベックがこの順に高く評価され、アメリカ産のホワイトオークが四番目、ボスニア産オークは五番目、フレンチオークはどのシャトーでも一番低く評価されていた。第一次世界大戦が起きてドイツとの関係が悪くなったために、一級シャトーはフレンチオークを使うようになったのだ。カリフォルニアでアメリカンオークを使っていた、もしくは今も使っている造り手のほとんどは、ヨーロッパと同じように樽材を天日乾燥するようには注文せず、非常に温度の高い密閉された建物内において、すばやく人工乾燥する方法を選んだ。樽材の産地や、製樽の方法にも頓着しなかったから、そのせいでアメリカンオークに悪い評判が立ったのだ。リッジでは、四十年に渡って毎年、少量だけ用いている最高品質のフレンチオークと、アメリカンオークとの比較試験を行ってきた。その結果から、適切な方法で乾燥・製樽されたアメリカンオークは、フレンチオークに勝るとも劣らないと確信するようになった。二十年、三十年、四十年前と比べると、今日のカリフォルニアでははるかに多くのアメリカンオークが使われるようになっている。カリフォルニアのカルトワインや超有名ワインは、フランスを真似ることに価値を見出しているからフレンチオークを使っているが、それが実験した結果ではないのは間違いない。



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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。