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連載コラム Vol.178

2011年ハーヴェストレポート No.4

  Written by 立花 峰夫  
 
 現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治氏からのハーヴェストレポート、いよいよ今年の最終回である。

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 11月9日、長かった2011年の最後のブドウが収穫された。 そして、11月15日、全ての発酵タンクをプレスし、2011年のハーヴェストが終了した。

 10月11日に最後の雨(少量)を記録してから11月2日までの2週間は、最高気温が20℃〜31℃の暖かい好天が続いた。そのお陰で、雨に打たれたブドウは回復し10月26日より収穫を再開することが出来た。若干雨の影響を感じさせる区画もあったが、ほとんどの区画が雨の影響を感じさせない出来であった。2009年から導入した選果台をフルに使って健全な果実のみを発酵タンクに送るように注意を払った。  収穫は、11月3日の午前中まで続いたが、午後になって雨が降り、収穫を断念し、一部のブドウのクラッシュを翌日に行うこととした。まるで判で押したような1ヶ月前の再現であり、奇しくも、3日に降り始めた雨が6日に止んでいるところまで同じであった。  今年は、雨といかに付き合うかが鍵となった。この雨の予報が出た時点で、RIDGEのソノマ地区の畑の管理チームの応援を手配して、雨の前に出来る限りの収穫をすることを決め、10月31日から、通常の処理能力の1.5から2倍量を収穫していった。昨年同様、社長をはじめ社員も総出で収穫を手伝ったが、約20tを残して雨を迎えた。 この雨は、11月6日未明にはやみ、降雨量は6mmと少なく、10月の24mmに比べて影響も少なかった。ただ、このとき既に、11月10日にまとまった雨が降る予報が出ていた。

 この時期、カリフォルニアでは、それまで低気圧を寄せ付けなかった大陸の高気圧が弱くなって、太平洋からの湿った低気圧の侵入を許すようになる。この状態を、「(低気圧の通り道の)門が開いた」と言う言い方をする。 そして、ワイナリーでは、「今年はまだ門は開いていない」「今度の雨からは、門が開いたままになる」などの会話が毎日の挨拶となった。この門が開いた後は、簡単に天候が崩れやすくなる。このように低気圧が続けて侵入してくることから考えると、既に門が開いており晴天の継続が期待し難いこともあって、11月8日、9日の2日間で全ての収穫をする事と決め、実行した。この時、ブドウの木は、既に葉が枯れ始め光合成が期待できなくなっていることも、この決断をした理由であった。

 2011年を総括すると、9月17日という遅いスタートにもかかわらず、10月初旬に雨が降り、収穫を中断。その後、穏やかな好天に恵まれ10月下旬より収穫を再開。11月初旬の雨はあったものの11月9日に収穫完了となった。実質、ハーヴェストが2回あったような感覚である。ジンファンデル中心のソノマ地区が1回目で、モンテベロのボルドー品種が2回目といった感じであった。

 また、2011年を一言で云うと「非常に難しい年であった。」 これは、RIDGEだけでなくナパを含むカリフォルニア北部全般に言えるようである。冷夏で生育が3〜4週間遅れていたところへ、10月初旬という早い時期に雨が降ったことが、今年を難しいものとした。  これに対してRIDGEでは、雨の影響を受けた房を畑で落とすことで、品質を維持した。その結果、昨年に引き続き収穫量を落とすことになったが、品質は落とさずに済んだ。

 非常に難しい年であったが、不可能な年ではなかったというのが私個人の感想である。今年は、世界各地で自然災害による甚大な被害が目立つ。その中で、難しい年ではあったが、今年もワインが造れたことは有難いことと感じている。 そして、難しい年からは、学ぶことが多い。ワイン造りは、自然相手なだけに毎年学ぶところが多い奥の深い仕事である。特に今年のような難しい年はいつもに増して学ぶところが多かったように感じられた。

 雨の後のブドウをクラッシュしているときは、「こんな難しい年は無い」「いったい2011年は、どうなることか」という不安が大きかったが、最後のプレスを終えてみる限り、RIDGEの2011年ヴィンテージも期待が持てそうな気がした。

2011年11月16日 黒川信治


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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。