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連載コラム Vol.177

2011年ハーヴェストレポート No.3

  Written by 立花 峰夫  
 
 現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治氏からのレポートの第三弾である。

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 予報より1日早い10月3日に雨が降り始めた。 降り始めた時点で、収穫を中断して雨除けのカバーを掛けてワイナリーへの輸送となった。ワイナリーのクラッシュパッド(ブドウを破砕/クラッシュするところ)は、屋外にあるため、ワインメーカーの判断により、クラッシュを翌日に延期することとして、雨を避けて一晩放置した。翌早朝は、まだ雨が残っていた為、判断が間違ったかと一瞬思われたが、10時頃から雨が上がり晴れ間が見えたのを逃さず、クラッシュを終えた。その1〜2時間後に再び雨が降り始め翌日まで振り続いた。少し大げさに書けば、間一髪であった。 10月3日から降り始めた雨は、5日をピークに6日の午前中まで断続的に続いた。晴れた日が続くことを望むワイナリーの人々の期待を裏切り、10月10日に再び雨を記録した。10日の雨は、少量の霧雨程度で、11日〜13日に待望の内陸からの風が吹いた。内陸から吹く風は、乾燥した暖かい空気の流れで雨に湿ったブドウを乾燥させるために最適である。この風によって、気温も30℃近くまで上昇し、14日に収穫を再開することができた。9月17日から始まった2011年のハーヴェストは、2週間後の10月3日で一度中断を余儀なくされ、その11日後の10月14日に再び収穫が始まった。2011年の2度目のハーヴェストが訪れた気分である。

 2度目のハーヴェストは、ソノマ地区の残っていたシラーとグルナッシェ、そしてモンテベロのシャルドネから再開した。前回のレポートに書いたようにシャルドネは雨に弱い。そのため、畑によっては晩腐病が発生しているところがあり、今回はその被害の一番大きな畑をまず収穫した。晩腐病は、雨などの影響で果粒にカビが発生する病気である。風通しを良くしてカビの発生を防ぐのが一番だが、発生してしまった場合はその房もしくはその周辺を切り落とすしかない。畑で丁寧にカビの部分を取除き収穫されたブドウの収量は約半分になっていた。 収穫されたシャルドネは、房丸ごとプレスし、搾った果汁をタンクに入れて一晩冷却する。冷却された果汁を樽に移送して、樽の中でじっくり時間を掛けて低温で発酵させる。この冷却された果汁の味を見たところ良い出来で、ワインメーカーのエリックと共に「カビの影響が感じられず、糖度も乗っていて悪くないね」と。 楽観するわけではないが、この最初のシャルドネを見る限りでは、病気の影響は大きく浸透していないと思われ、畑での厳格な選別によって2011年もシャルドネが造れそうだと感じた。ただし、ただでさえ生産量の少ないRIDGEのシャルドネの2011年の収穫高が激減することは目に見えている。

 一方、まだ始まっていないモンテベロの黒ブドウについても、13-14日の2日間で、畑の位置、品種、樹齢、水はけ等の条件別に48の区画に分けてサンプリングを行った。48区画全ての糖度が19度以上22度未満と同じレベルで併走していた。これは、珍しい現象である。通常、メルローが先行してカベルネやプティヴェルドが遅れるといったように、もう少し開きが出るが、今年はなぜか熟成の足並みが揃っている。 あくまで糖度や酸度は収穫の目安であって、決定的なファクターではない。重要なファクターは、フレーバーである。ブドウの果実は、成熟していくに連れて、グリーンな香りが消え、熟成した風味が出てくる。今回のサンプルは、雨のせいかボディが若干希薄に感じるものも結構見受けられたが、この未熟な香りであるグリーンな風味を感じたものは、わずかに5つであった。これは、9割の区画で収穫が近いことを示すサインである。

 この収穫が滞っていた1週間に、偶々ナパやソノマの他社ワイナリーを訪問する機会があった。その時伺った話では、どこも同じようにシャルドネやピノノワールの収穫が未完で、カベルネに至っては、ほとんどのワイナリーが手もつけられていない状況で、今後の天候に憂いを示すところばかりであった。 天気予報によれば、10月22日まで、この25℃から30℃前後の暖かい晴天が続く見込みである。14日から始まったシャルドネとソノマ地区の残りのブドウの収穫は、18日までに目処が立ちそうである。この5日間を含む22日までの10日間にどれだけ熟成が進んでくれるかが、モンテベロだけでなくカリフォルニアの2011年の出来を占うことになりそうである。

2011年10月15日 黒川信治


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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。