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連載コラム Vol.173

映画『ボトル・ドリーム』について その1

  Written by 立花 峰夫  
 
 リッジ・ヴィンヤーズも大きくかかわった1976年のパリ・テイスティング(またの名を「パリスの審判」)を主題にしたアメリカ映画が、このたび日本でもDVD発売された。タイトルは『ボトル・ドリーム カリフォルニアワインの奇跡』(原題はBottle Shock)、アメリカでは2008年に劇場公開、日本では一般劇場公開はなされなかった作品である。

 この映画、アメリカ版公開当時から、いや映画製作中からいろんな意味で物議をかもした問題作であった。もともと、パリ・テイスティングに立ち会った米国タイム誌の記者、ジョージ・テイバーが2005年に「Judgment of Paris」というノンフィクションを出版したのがことのおこり(邦訳『パリスの審判』日経BP)。この本は、パリ・テイスティングのいわば「正史」であり、1976年の歴史的事件に関わった関係者への入念な取材によって編み上げられた力作である。まず、この本を原作に、パリ・テイスティングの映画を撮ろうという企画がハリウッドで持ち上がった。タイトルはそのまま『Judgment of Paris』。パリ・テイスティングからちょうど30年が経過し、カリフォルニアワインの繁栄も続いていた時期だったから、企画は通り、予算も付いた。脚本家が決まり、執筆が始まった。

 ところが、その直後にハリウッドで脚本家の大規模なストライキが起り、『Judgment of Paris』の企画はストップしてしまった。そのスキを狙い(?)、ゲリラ的に持ち上がったのが、この『ボトル・ドリーム』という映画の企画である。こちらも、同じ1976年のパリ・テイスティングを元にしている、という点では『Judgment of Paris』と同じだが、違うのは、「シャトー・モンテレーナのジム・バレット/ボー・バレットのためだけに作られた映画」だという点(シャトー・モンテレーナは、パリ・テイスティングの白ワイン部門でシャルドネが1位になったワイナリー)。「バレット親子がお金を出して作らせた映画」といえるぐらい、多額の資金提供をしたそうだから、当たり前ではある。

 結局、本家本元の『Judgment of Paris』の映画版は、『ボトル・ドリーム』がさっさと制作され、先に封切られてしまったものだから、お蔵入りになってしまった。

 この話、次回に続く。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。