Archives
連載コラム Vol.162
ジンファンデルはシリアスなワインか? その2
  Written by 立花 峰夫  
 
 ジンファンデルの赤の平均価格がカベルネやシラーよりも高いというデータは驚きだが、その原因には、「シリアス」に造られた高価なジンファンデルの増加があろう。ただ、ここでいう「シリアス」なジンとは、リッジのようにテロワールの妙味を表現することを第一に考えて造られたものばかりとは限らない。

 「濃厚なワインほど良い」という一種の信仰が造り手・消費者の中でエスカレートしていった結果、30〜38度といった異常に高い糖度でブドウを摘み(そうすれば人為的方法でアルコールを下げることが必須となる)、新樽風味を強く付けて熟成させた、とにかく大柄なジンファンデルが増えた。風味は極めて濃厚で評論家ウケも良いが、「一杯飲めばお腹いっぱい」という代物。グラス一杯飲んだときのインパクトは絶大だが、料理には合わないし、レーズンの風味が強すぎて、ブドウ本来の果実味も、テロワールの個性も塗りつぶされてしまっている。

 1990年代、高アルコールの濃厚なジンファンデルで、最初にカルト的人気を博したのが、ターリー・ワイン・セラーズであった。その後、ターリーのエピゴーネン的ワインが増えていく。ターリー・セラーズの共同経営者であるエーレン・ジョーダンのコメントが、今回ジョン・ボネの記事に引用されていたのだが、「昔はたいていの畑で、ウチのワイナリーのブドウが最後に摘まれていた。ところがいまでは、たいていウチが一番初めに摘んでいる」というのだから皮肉である。ターリー・セラーズのスタイルが変わったわけではなく、他のワイナリーが、超・過熟状態、つまりは干からびたレーズンのようになってから、ブドウを摘むようになったということだ。

 ただ、この傾向にはゆり戻しの兆しを見る向きもある。ジョン・ボネによる別のジンファンデルに関する記事には、以前リッジで働いていて独立した醸造家、マイク・ダッシュ(ダッシュ・セラーズ)による次のコメントが紹介されていた。「超熟、過熟なブドウによって造られたワインの氾濫は、峠を越したように思う。消費者はもう、そんな味に疲れているんだよ」

 リッジのジンファンデルは、1970年代から常に王道を行くシリアスなワインであった。単独では長期熟成には向かないが、他品種とうまくブレンドすれば、優れたヴィンテージのリットン・スプリングスやガイザーヴィルのように、20年、30年と美しく育ち続けることができる。リッジのジンのアルコール度数はおおむね14%代。「この品種がフレーバーを十分表現するには、そのぐらいのブドウの熟度(糖度24〜26度)が必要」とのドレーパーの考えが反映されたものだが、飲み疲れするような重々しい仕上がりにはならない。

 ジョン・ボネの問い、「ジンファンデルはシリアスなワインか?」に答えるなら、「総論としてはノー、しかし優れた例外はある」ということになろう。リッジ以外にも、マイク・ダッシュを初めとして、同じ志でジンファンデルに向かう造り手は少なくない。

Archives
 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。