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連載コラム Vol.161
ジンファンデルはシリアスなワインか? その1
  Written by 立花 峰夫  
 
 毎年1月末、サンフランシスコではカリフォルニア中のジンファンデル生産者が一同に会しての大試飲会、ZAP Festival が行われる。今年、そのZAP開催直前のタイミングで、地元の有力新聞『サンフランシスコ・クロニクル』紙に『ジンファンデルはシリアスなワインか?』、というコラムが掲載され、大きな反響を呼んだ。

 読者を挑発し、注意を喚起するためのいささか乱暴なタイトル=問いかけであり、当然ながらイエス/ノーで答えられるものではない。「日本人はバカか?」と聞くようなもので、「バカもいれば、賢い人もいる。全体としてバカが多いかどうかについては、よくわからない」というぐらいの返事しか出てこない種類の質問である。筆者のジョン・ボネは、カリフォルニアワインの取材・試飲・執筆を長年続ける力のあるライターであり、自分のつけたタイトル=問いかけに答えを出すことをそもそも目的にしていない。

 ボネが強調するポイントとは、アメリカ市場において、ジンファンデルというブドウが現在、一種の「文化的衝突」のさなかにあり、宙ぶらりんな位置で揺れ動いているという状況である。一方でジンファンデルは、「アメリカ人にとってのハンバーガーとポテトのような存在のワイン」「アンチ・スノッブのワイン」として喧伝され、気軽さこそがその美徳として、市場から一定の認知を受けている。他方で、ジンファンデルから「シリアスでニュアンスのある、テロワールを反映したワイン」を造ろうとする生産者(リッジは当然こちらに含まれる)も増えており、その結果“なんだかよくわからないブドウ”になってしまっていると言うのである。

 記事の中でボネがあげている数字は実に興味深い。昨年、ジンファンデルのワインは年間約200万本造られたと記事にはあるが、これは市場全体のわずか1.6%を占めているに過ぎない(ただし、ジンファンデルのカリフォルニア州における破砕量(2009年)が約45万トンある事実を考えると、この数字には疑問が残る。45万トンのブドウからは、4〜4.5億本のワインが生産できる計算になるからである)。ただ、もっと興味深いのは、ボネがあげているワイン一本あたりの品種別平均価格である。

ピノ・ノワール 9.63ドル
ジンファンデル 9.13ドル
カベルネ 7.57ドル
シラー 6.87ドル

 この数字がほんとうならば、ジンファンデルはカベルネやシラーよりもはるかに高級(あるいはシリアス)なブドウだということになる。

この話題、次回に続く。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。