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連載コラム Vol.158
選果システムが光った2010年
  Written by 立花 峰夫  
 
 ポール・ドレーパーをして、「これまでに経験したことのない年」と言わしめた2010年のハーヴェスト。この年は、昨年導入されたばかりの自動選果マシーン ミストラルと、その後に控えるコンベアベルト式の選果テーブル(今年に新規導入)が、大いに威力を発揮した。

 収穫後に、未熟果、レーズン、果実以外の物体(MOG / Materilas other than grapes、すなわち葉や茎の切れ端などの異物)を取り除く選果という作業は、1990年代にボルドーやブルゴーニュといったヨーロッパの高級ワイン産地で、一気に普及した。数年前からは、いくつかの方式の自動機械(リッジが導入したミストラルもそのひとつ)が実用化されたが、それまでは完全な手作業。ベルトコンベア式のテーブルの両側に作業員が大勢張り付き、目と手触りで健全果以外を弾いていくという重労働である。人件費がうんとかかるから、そのコストを販売価格に転嫁できる高級ワインでしか用いられない。しかし、カビ系の病害による不良果が多いヨーロッパの産地では、その効果は劇的である。

 一方、カリフォルニアのように天候の安定した産地では、選果台の必要性が疑問視されることが多かった。ポール・ドレーパーもかつてはそう考えており、「カリフォルニアでは、熟練した収穫作業員が、畑で行う選別で十分」という意見だった。しかしながら、ワイン造りの洗練度合いを追求するプロセスの中で、ついに選果システムを導入したのが2009年のこと。ただし、初年度については、劇的と言えるほどの効果は認められなかった(とはいえ、ワインが完成形となり、瓶詰めされるまでは断定的なことは言えない)。だが、今年は違ったのだ。

 冷夏の渦中に突如訪れた酷暑によって、ジンファンデルで大量の「未熟なレーズン」が発生してしまった2010年。畑での選別(駄目な果実を切り落としてしまうこと)が行われたのはもちろんだが、収穫後の選果も徹底的に行われた。おかげで収穫量が平年と比べて40%以上落ち込むことになったが、ワインの品質は上々だという。

 選果台やミストラルは、傘のようなものである。晴れていれば、効果がないばかりか邪魔にすら感じる。しかし、ひとたび雨が降れば、そしてその雨が強ければ強いほど、傘はかけがえのないものになる。地球規模での気候変動が進む中、カリフォルニアのブドウ栽培も、この先は天候不順にしばしば悩まされるようになるかもしれない。その流れの中で、リッジにおける選果システムの導入は、遅すぎず早すぎず、ベストの決断であったように思う。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。