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連載コラム Vol.156
モンテベロの動物たち
  Written by 立花 峰夫  
 
 リッジの本拠地、モンテベロ・ワイナリーは山の上にあるから、畑や周辺の山林ではいろんな動物がいる。四本足の動物では鹿とコヨーテが代表角。コヨーテは、小型の狼といった感じの獣で、夜になると悲しげな声で遠吠えをする。そのことから、「スクリーミング・コヨーテ」という極少量生産のスペシャル・キュヴェを造ったらどうか、なんていう冗談が、ワイナリー・スタッフのあいだで語られていたことがあった。

 野鳥で面白いのは、孔雀がたくさんいること。ある時、ワイナリーへと上っていくグネグネ道を車で走っていて、ブラインド・コーナーを抜けた途端、道路の真ん中にこの派手な鳥が仁王立ちしていたことがあった。轢かずに済んだものの、大変に肝を冷やしたものだ。

 物騒な動物もいて、猛毒をもつガラガラ蛇は恐ろしい。滅多に出ることはないのだが、一般のお客さんが立ち寄るテイスティングルーム周辺の畑には、「Be Aware of Rattlesnake」(ガラガラ蛇に注意)の立て札が一応ある。かつて一度、畑のクルーが噛まれてしまったことがあり、そのときは救急車ならぬ救急ヘリコプターで麓の病院に運んだらしい。血清を早いうちに注射しないと本気で死んでしまうのだ。

 ワイナリーにはペットもたくさんいる。総帥ポール・ドレーパーは大の愛犬家で、ブディーという真っ白なムク犬を毎日ワイナリーに連れてくる。ブディーの名前の由来はブッダ=お釈迦様から。東洋哲学に造詣の深いポールらしい名付けである。尊い名前をさずかっているだけあって、この犬はやんごとない性格でをしている。ご主人様にも似て、穏やかで思慮深い。

 猫もいる。クラッシュ・ステーションのすぐ横に建つ小さな家に住むセラー・クルー、ラウールの買っているキジトラの猫サンガノは、ラボ・ディレクターのカレンに大層なついていて、いつもラボにいる。分析用の精密機械が並ぶ部屋に猫がいてもいいのかしらと思うが、不都合はないらしい。サンガノはブディーとも仲良しなので、リッジのラボは人よりも動物のほうがたいてい多い。この二匹、ラボで役にたつかというともちろんさっぱりなのだが、とにかく働く人々を癒してくれるのである。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。