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連載コラム Vol.155
2010年ハーヴェストレポート No.4(完結編)
  Written by 立花 峰夫  
 
波乱万丈であった今年のハーヴェストも、11月5日をもって終了した。
2000年から11年間に渡って毎年収穫時期の作業に携わってきた黒川氏によるレポートも、今年は今回で完結である。前回のレポートからの進捗と、今年の総括をお届けしよう。

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 ワイン造りは、農業でありいつも天候予報とのにらめっこをしている。  そして、収穫が近づくにつれて頻繁に変わっていく長期予報を追いかけている。前回のレポートで、「長期予報では、この先2週間ほど晴天が続くといわれている。」と書いたが、晴天が続いたのは1週間であった。3週続いた週末の雨は、11月7日(日)にも降り、結果的に週末の雨は4週連続したことになった。
 この予報に基づいて、注意深く畑へのサンプリングを続け、収穫のタイミングを計った。幸いなことに10月30日の雨の後は快晴に恵まれた。ブドウが十分に乾燥するのを待って11月3日から3日間かけて、残りの約20tの収穫を行い、11月5日のカベルネを最後に難しかった2010年のハーヴェストを終了した。
 その結果、我々にとって11月7日(日)の雨は、恵みの雨となった。毎年、収穫が終了した後、1年間の労をねぎらって、ブドウの木にしっかり水を与えている。乾燥したカリフォルニアでは、灌漑によってこの水やりを行うことが多いが、これに代わる天の恵みの雨が降った。
 そして、ナパでは、この雨を前に収穫を計画したワイナリーが多かったようだが、多くのワイナリーが同時に収穫を希望した為、請負で収穫をする人たちの手配がつかず、収穫し切れなかったところもあったと聞く。また、10月30日の雨の前にも収穫できなかったところも含めて、未だに葡萄の木に果実がぶらさがっている畑もいくつかある。それらのワイナリーでは、同じ雨が恵みの雨ならず、招かざる雨であったことであろう。
 これに付随する話として、ソノマにあるEnologix(カリフォルニア全土からワインのサンプルが送られてくるワイン分析請負会社)によると、10月30日以降に収穫されたワインの中には、やや希釈されたようなものもみられたようである。

 閑話休題

 ここでまで天候中心に話を進めてきたものを、ワイナリーの設備について触れたいと思う。
 RIDGEでは、毎年出来る限り何か新しい事へのチャレンジを実施している。昨年は、ブドウの受入設備を一新した。この設備が、今年活躍した。ジンファンデルは、冷夏の後の日焼けによって干からびた部位が多く見られた。それらを、選別して取り除く際に新しいレシーバーのフラットなコンベアは無くてはならないものであった。
 10年近く検討してきたこのプロジェクトとの最後に、今年、ソーティング・テーブル(選果台)と呼ぶ卓球台くらいのフラットなコンベアを導入した。これは、カベルネやメルローなどの破砕なしで徐梗だけをするボルドー品種に使用するものであり、除梗された果実(粒)を目視検査確認する幅の広いコンベアである。
 この一連の設備導入により、工程は多少時間がかかるようになったが、品質的には向上してくれるものと期待している。結果を断定できるのは、瓶詰めする2013年頃もしくは、そのワインがある程度熟成した10年先になるかもしれないが、現時点で既に十分な手ごたえを感じている。
 そして、これらの新しい一連の葡萄受入れ設備は、難しかった2010年を乗り切るために役立ったことから、非常に良いタイミングで導入されたと言える。


 2010年のハーヴェストのキーワードは、「5月の雨」「冷夏」「8月23日から25日のヒートウェーブ(熱波)」「穏やかな秋」「10月後半から4週続いた週末の雨」と言える。
 また、RIDGEで40年ワイン造りに携わってきたポール・ドレーパーにして、「これまでに経験した事のない年」と言わしめた年。
 「チャレンジの年」と呼んでいるワインメーカーも多い。また、収穫のタイミングが大変難しい年で、その判断がワインの良否の分かれ目になっており、極めて難しくワインメーカーにゆだねられる事が多かった事から、「ワインメーカー・ヴィンテージ」という人もいる。

 2000年からRIDGEの収穫に立ち会い始めて、今年で11年目。その中でも今年は大変難しい年のひとつであった。そんな2010年の収穫を新しい設備と人の力で無事乗り切った、今、思う事は、11年続けて一度として同じ年はなく、簡単な年もなかったということ。そして、このあたりにワイン造の奥の深さと面白さをあらためて感じさせられた。

 現在、タンクで二次発酵を続けている2010年のワインは、収穫量が極端に少なくなってしまったジンファンデルを含めほぼ全ての葡萄が、穏やかな秋の気候に助けられ香りが豊かで、色や酸度もしっかりした状態であることから、長期熟成に耐えられそうなワインになりそうである。手間のかかる子供はかわいいと言うが、難しい年を乗り切った今年のワインは、新しい設備の件もあり、今後のゆくえが楽しみである。


2010年11月16日 黒川信治


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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。