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連載コラム Vol.153
2010年ハーヴェストレポート No.2
  Written by 立花 峰夫  
 
現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治氏からの続報レポートが届いた。天候不順によって先が危ぶまれたこのヴィンテージ、その後どう推移しているだろうか。

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 9月末に35℃を超える暑い日が1週間ほど続き、熟成を目前に足踏みをしていたソノマ地区にあるいくつかの畑が収穫を向かえ、9月28日から休みなしに10月6日まで収穫が続き、ソノマ地区の畑(ジンファンデル、プティ・シラー、グルナッシェ・カリニャン、シラーなどの品種を栽培)の収穫を九分九厘終えた。残った極一部の畑は、約1週間経過した10月14日に一日で収穫され、ソノマ地区の2010年は完了した。
 そのバトンを受け継ぐようにモンテベロの畑の収穫が、14日より本格的に始まった。これまで、随時シャルドネは収穫されていたが、黒葡萄に関しては、メルローの一部(12t)とわずかなカベルネ(5t)が、10月3日から7日にかけて収穫されたに過ぎなかった。丁度時を同じくして、何故かモンテベロの畑でもソノマの畑同様に1週間収穫待ちが続いていた。

 ソノマ地区の畑の終了に伴い、2010年のジンファンデルは、モンテベロにあるジムソメアの畑(数トン分)を残し終了した。今年のジンファンデルの収穫高は、460tと、ここ10年の平均収穫高の810tをはるかに下回る数量となった。記憶に新しい収穫が激減した旱魃の年2008年でさえ698tあり、460tがいかに少ないか、すなわち今年の日焼けによるダメージがいかに大きかったかを物語っている。前述のとおり収穫高は、ここ10年で最低であったが、品質はもしかすると最高に近い可能性を秘めている。色やタンニンが、しっかりしていることやジンファンデルといっしょにブレンドされるカリニャンやプティ・シラーなどの品種の出来が素晴しいことなど、収穫高以外ではポジティブな要因が目に付く。それらを総合すると、2010年のジンファンデルは、生産量は極めて低くなることは否めないが、品質の高いワインが期待できそうである。

 話を戻して、ソノマとモンテベロの両方の畑において黒葡萄の収穫のなかった中休みともいえる10月8日~13日は、30℃を超える日が大半であった。その中で、10月12日のように日差しが痛く感じられ35℃を超えた日もあった為、ここで一気に葡萄が熟成するのではないかと、備えていたが、実際には、糖度が一気に上昇することなく、予想に反して14日まで収穫すべき葡萄は出てこなかった。このじっくりした熟成は、理想的な熟成傾向といえる。
 今年になって聞いた話であるが「ある一定の糖度になると、細胞膜の浸透圧の関係で糖分の上昇が止まる。その後は、糖度上昇は乾燥等の脱水に依存する。また、その時から4-5日間、アントシアニンやタンニンは上昇しその後下降する。」という説があり、一般に言われている「葡萄の木の上でじっくり熟成したときは、香りも良くていいヴィンテージになる」という説とつながっている。

 良いヴィンテージを予感させるが如く2010年のモンテベロの畑では、熟成がまったり進んでいる。ここまでの数少ないデーター(メルローとカベルネによる)が示すところでは、前述のとおり、非常にしっかりした色、タンニンのサイズも大きめという良いヴィンテージの傾向が見られている。まさに、ここへ来て、葡萄にとって順調な状況になっている。この後の天候が現状のように継続してくれたら、2010年のモンテベロは、グレート・ヴィンテージを予感させる。モンテベロの畑はジンファンデルのようなダメージを受けていないので、良質なワインの収穫高の予想が平年並みもしくはわずかに上回ることが、ジンファンデルの収穫高減に対する救いとなりそうである。

 ワイン造りは農作業であり天候次第のため、最後まで気が抜けない。
 昨日までの長期予報では10月後半まで良い天気に恵まれるはずであったのが、急に今週の日曜日が雨という予報に変わっていた。今年のハーヴェストが始まったときは、「難しい年になる」とのことで皆が厳しい表情であったが、ここへ来て、好天に恵まれ当初の暗い雰囲気はなくなり、現場の雰囲気もいい意味で変わってきた矢先の出来事である。
 まだ、始まったばかりで7~8割を残すモンテベロの収穫が終わるまで、どんなドラマが待っているかわからない。ただ、自然には逆らえず、一喜一憂しながらも、状況に合わせ最善を尽くすのみである。

2010年10月15日 黒川信治


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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。