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連載コラム Vol.152
2010年ハーヴェストレポート No.1
  Written by 立花 峰夫  
 
今年も収穫が始まった。現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治氏からのレポートの第一弾をお届けする。今年は例年にも増して、ドラマチックなシーズンとなっている模様である。

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2010年ハーヴェストは、9月3日にリットン・ウエストのジンファンデルから始まった。続いて9月4日ガイザーヴィルのジンファンデル、9月6日のパソロブレスのジンファンデルと続いた。

2010年の生育期を振り返りながら、収穫状況をレポートしていきたいと思う。

この年の特筆すべきひとつめは、「春の雨」である。カリフォルニアでは、冬から春にかけて雨が降り、それが地中に蓄えられる。葡萄にとっては、それが、乾燥した夏における重要な命の水となる。平年であれば、12〜3月くらいが雨の時期であるが、今年は、雨の時期がシフトしたように4月に平年の2~3倍の雨を降らせて5月下旬まで、断続的に降り続いた。この影響で、生育期が大幅に遅れ、約4週間遅れのスタートとなった。7月に、カリフォルニアを訪れた際、ソノマ地区の葡萄園を見てまわったが、遅れた生育期は取り戻されていなかった。

この要因のひとつが、特筆すべき2つめである「冷夏」」である。連日30℃を越える日が続いた日本の2010年の夏とは対照的にカリフォルニアの2010年の夏は30℃を超える日が数えるほどという、まさに冷夏であった。冷夏を象徴する気温が8月中旬まで続いた為、葡萄園では、うどん粉病(カビによる病害)の発生を恐れ、摘葉を実施した。

その矢先の8月23日から25日に特筆すべき3つめの「ヒートウェーブ(熱波)」に見舞われ、葉が少なくなった葡萄の実は45℃前後の直射日光に曝されることとなり、重度の日焼けによるダメージを被った。通常の日焼けは、房の肩の部分に多少影響が出る程度であるが、この時の日焼けは、日光に曝された葡萄の房の反面が枯れてしまったり、ひどいものでは枝にダメージを受け房丸ごと枯れてしまっているようなものが随所に見られた。畑の担当者の話によれば、収穫高として30-40%減とのことである。

このダメージをまともに受けたのは、ジンファンデルであった。これは、この品種の果皮が薄いため、高温の直射日光によって果粒内の水分が蒸発しやすい事や、この時、既にベレイゾンを終え、果肉がやわらかくなっていた事などが影響したと考えられる。一方、ほかの品種は、ジンファンデルに比べ生育期がやや晩成であることや果皮の厚さの違いなどの理由から、ダメージは少なかった。

9月に入っても、冷夏の様相は続き、ワイナリーでは「熟成が遅れているモンテベロのボルドー品種の収穫が訪れるだろうか」という心配をし始めた8月の熱波からちょうど1ヶ月経った9月24日頃、海からの冷たい風が内陸からの暖かい風に変わり、それとともに気温も上昇し始めた。特に9月27日28日の畑では40℃を記録して、木の上でゆっくりと熟するのを待っていた葡萄の最後の一押しとなり、一斉に完熟した葡萄がワイナリーに続々と運び込まれるようになった。

この秋、ハーヴェストに来てポール・ドレーパーと挨拶を交わした際、彼の口から出た最初の一言が「これまで41年間やってきて、こんな年は始めてだ」。この言葉が2010年を物語っている。また、モンテベロ、リットンスプリングスの両ワイナリーの醸造責任者であるエリックとジョンも当初「難しい年」と口を揃えていっていた。

実際、一月たってみると、収穫のタイミングや畑での選別、ワイナリーで受け入れる際にも例年以上に気を使うなど、タンクに入るまでの工程が難しい年であって、タンクに入った後は、タンニンの抽出など順調であり、いつもと変わらない感じがする。

これまで収穫を終えたものの中では、カリニャンが目立って秀逸である。また、この穏やかな気候のお陰で、最近収穫されたものや収穫予定の目途が立っているプティシラーや一部のジンファンデルなどは、色・香りなどすばらしい状態になってきていて、期待が持てる。一方、モンテベロの畑は、この高温で生育期の遅れを取り戻しているが、カベルネなどは、もうしばらく時間がかかりそうであり、詳細は次回のレポートに譲ることにする。

大自然は、時として害を及ぼすが恩恵も与えてくれるという現実を肌で感じられる2010年は、手間はかかるが面白くなりそうなヴィンテージである。

2010年9月29日 黒川信治


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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。