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連載コラム Vol.151
創設50周年記念 回顧テイスティング その5
Geyserville & Lytton Springs Double Vertical Tasting 2005-1973
  Written by 立花 峰夫  
 
 2005年から1970年代まで遡る、ガイザーヴィルとリットン・スプリングスのダブル・ヴァーティカル・テイスティング。後半は、「ジンファンデルは熟成しない」という常識を亡き者にする完璧な状態の古酒が提供された。ジンファンデルとして優れている、という相対的な価値ではなく、世界中のどんな銘醸ワインに比しても見劣りしない絶対的な価値。驚愕と興奮を禁じえない、発見に満ちた試飲であった。

●Geyserville 1999
開ききった香りで、落ち葉、紅茶など秋の香りがかなり強い。2001と同じキャラクターで、少し時計の針を進めた印象。ドライトマト、ウェットストーン。スワリングのあと、甘くクリーミーなオークの香りが顔を出す。 しなやかなエントリー。まだ優しいフルーツが味わいの中には残っていて、実に柔らかくしみじみと楽しめる。まさに今飲み頃。溶けたタンニンで、酸は流麗でとても美しい。長い余韻。素晴らしい状態のジンファンデル。

●Lytton Springs 1999
香りは同年のガイザーヴィルほど開いていないが、若々しさは上回る。凝縮感の強い香りで、黒いフルーツのコンフィを想起させる。スパイシーで、ブーケガルニのような複雑なニュアンス。 口に入れると強い凝縮感が広がる。力強くタニック、ストラクチャーのあとでフルーツが来る。とても強いワインで、どこまで熟成できるのか予測もつかない。偉大なリットン・スプリングス。

●Geyserville 1997
秋の香り。甘いオークのニュアンスが最初から強く香る。乾燥した赤系果実、ウェットストーン。華やかでしなやかな香り。 口中には柔らかく優しい果実の風味がいっぱいに広がる。酸、タンニン、オーク、フルーツが渾然一体となって、球を思わせる最高のバランスを達成している。素晴らしく長い余韻。これ以上ない状態で熟成のピークを迎えた忘れがたいワイン。ジンファンデルの究極といって差し支えない。

●Lytton Springs 1997
こちらも熟成は進んでいるものの、同年のガイザーヴィルよりは若々しい印象。タール、インク、甘草、ブラックオリーブ、アジアン・スパイスのエキゾチックな香り。とても複雑で、あとから甘いオークが顔を出す。 まだストラクチャーが強く、タンニンの骨格が素晴らしい。骨の次に果実の肉がくる。酸はおだやか。素晴らしく美味だが、もう少し熟成させてから楽しみたい。

●Geyserville 1988
紅茶、タール、枯葉などのニュアンスが強いが、まだ活力が感じられるブーケ。ウェットストーンと枯れ気味の赤いフルーツ。甘い樽香がとても蠱惑的で官能的。熟成段階に応じた完璧な香りのプロファイルで、最高のピノ・ノワールを連想させる。 味わいもとても柔らかく、完璧な熟成を経てきている。酸と柔らかいフルーツ、溶けたタンニンがこれ以上望めないほどのバランスを達成している。ただただ偉大なワイン。

●Lytton Springs 1987
同年のガイザーヴィルと似たスタイルの香りだが、タール、スパイス、黒系フルーツ、ブラックオリーブの香りが強い。バローロのようなバルサム系の香り。まだ若々しさがあり、カシスリキュールのような甘いニュアンスが感動的。 甘く若いフルーツが味わいでも感じられ、タンニンにはまだ強靭さが感じられる。パワフルなワインでまだ先があるのが驚異的。長いフィニッシュ。

●Geyserville 1976
30年以上経過したジンファンデルとは到底思えない若く元気な香り。甘いオークのニュアンスが強く感じられる。非常に華やかな印象。きのこ、乾燥した赤系フルーツ、ドライハーブ、タール。非常に複雑で感動的。 まだタンニンのストラクチャーが感じられ、果実も力強い。しっかりとしたグリップがある。余韻でタンニンの粗さに気づくが、まだ楽しめるワイン。長い余韻。

●Lytton Springs 1973
熟成のピークを越し、少し下り始めた古酒の香り。少しモールディなニュアンス。フルーツはもう消えている。醤油を思わせる独特の香り。漢方薬っぽいニュアンスも。 果実味は枯れているものの、まだ楽しめる味わい。余韻で、タンニンのざらりとしたテクチャーが見える。繊細なタンニンが印象的。リットンらしい力強さには欠けるものの、枯れ気味の味わいが好きな向きにはおススメできる。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。