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連載コラム Vol.146
番外編: ジンファンデル
  Written by 立花 峰夫  
 
ここしばらく連載してきた「リッジが使う品種シリーズ」。カベルネ・ソーヴィニョンを最終回にと考えてきたが、番外編としてジンファンデルをお届けする。このブドウについては、当コラムでも栽培責任者デイヴィッド・ゲイツの講演やコラムのほか、多くの情報をお伝えしてきているが、今一度要点をサマライズしておこう。

現在、カリフォルニア州における栽培面積は、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロに次いでの第三位。それでも、同州を象徴するブドウ品種といえば、やはりジンファンデルしかありえないだろう。

1820年代に、オーストリアからアメリカへと持ち込まれたこのブドウ。ヨーロッパのなんという品種なのかがアメリカ国内に入ってからわからなくなってしまい、近年までそのルーツは謎であった。移民の国にふさわしい経歴をもったジンファンデルは、その点でもアメリカ国民に愛されてきたのだが、2001年にとうとう起源が判明する。クロアチアにあるツールイェナック・カステランスキーというブドウがその正体で、事実がわかった際には本国でほとんど絶滅寸前になっていた。このあたりの話については、過去のコラム「ジンファンデルの起源を求めて」を参照してほしい。なお、イタリア南部で栽培されているプリミティーヴォもジンファンデルと同一種で、やはりクロアチアからもたらされている。

ジンファンデルは栽培が難しい品種で、果粒同士が密着しているため、カビが生えやすい。乾燥した気候のカリフォルニアでもかなりの神経をつかってやらないと、カビ病にやられてしまう(湿潤なクロアチアで、この品種が絶滅しそうになったのは、カビ病に弱いからだと考えられている)。また、成熟が不均一なことでも悪名高いブドウで、一房の中にレーズンと未熟な青い粒が混在するのが当たり前に見られる。気難しいブドウというと、ピノ・ノワールのことばかりが話題になるが、ジンファンデルも同じぐらいには育てるのがやっかいな品種である。味わいの特徴は、あふれんばかりに強いチェリー/ベリー系の果実風味と、やや強めの酸、おだやかな渋味である。

このジンファンデル、カリフォルニアでは昔から、「ありふれた、どこにでもある」ブドウとして、馬車馬のようにあらゆる用途に用いられてきた(英語にはworkhorse grape という言葉がある)。軽い赤から重量級の赤、最近はあまり造られなくなったがポートワインタイプの酒精強化、遅摘みブドウを使った甘口、そして一世を風靡し、今も根強い人気を誇る甘口ロゼ(ホワイト・ジンファンデル)。高級品としての評価は、カベルネ・ソーヴィニョンやメルロ、ピノ・ノワール、シラーといった由緒正しい品種と比べると低く、そのため「なんでも屋」の地位を担わされてきた。

しかしながら、ジンファンデルも「やればできる子」だというのは、リッジの歴史が証明してきている。ガイザーヴィルやリットン・スプリングスのジンファンデルは、この品種としては異例なほど長期熟成が可能なワインで、優れたヴィンテージだと、70年代、80年代のものでもまだ最高の状態にある。その事実が改めて世界に示されたのが、今年3月に行われた回顧テイスティングであった。この話題については、次回以降のコラムでしばらく取り上げる。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。