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連載コラム Vol.145
カベルネ・ソーヴィニョン その1
  Written by 立花 峰夫  
 
品種シリーズの最後は、カベルネ・ソーヴィニョンである。リッジの象徴、モンテベロの主力品種であり、リッジで最も重要なブドウといえばやはりカベルネ・ソーヴィニョンになるだろう。モンテベロの畑には約28ヘクタールが植わっており、同畑のボルドー品種の約70%を占めている。

原産は、本拠地でもあるフランス・ボルドー地方と考えられており、カベルネ・フランと白ブドウのソーヴィニョン・ブランの自然交配で誕生したことがわかっている(名前を両親から引き継いでいるのは単なる偶然)。ボルドーを代表するブドウと現代では考えられているが、栽培が本格的に始まったのは18世紀後半と遅く、メドック地区で主要品種となったのはフィロキセラ禍後の19世紀後半である。ボルドー地方の長い伝統と結びつくせいか、うんと昔から尊ばれているブドウというイメージがあるが、実はそうでもない。

しかしながら、20世紀後半に入ってからの世界進出はすざまじかった。ありとあらゆるワイン生産国を攻め、支配下に置いていくその様は、「グレープ・インヴェーダー」とまで称されたほどだ。カベルネ帝国にいまだ組み込まれていないのは、このブドウが完熟できな い寒冷な産地のみ、すなわちドイツ、イギリスぐらいである。ただし、ドイツのモーゼル地方ですらカベルネ・ソーヴィニョンは栽培認可品種の一つになっているし、イギリスでもカベルネは栽培されている。

2004年時点における世界トータルの栽培面積は26.2万ヘクタールで、黒ブドウ中の堂々第1位(全ブドウ品種中では、白のアイレンに次ぐ2位。3位はメルロで26.0万ヘクタール)。1998年時点では14.6万ヘクタールだったから、わずか6年で80%も伸びていることがわかる。カベルネ帝国の拡大は今も止んでいないのだ。

ではなぜ、カベルネ・ソーヴィニョンはこれだけ領土を広げることができたのか。その点を次回には考えてみよう。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。