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連載コラム Vol.144
プティ・ヴェルド
  Written by 立花 峰夫  
 
プティ・ヴェルドは、モンテベロの畑から造られるカベルネ・ブレンドのワインに、5〜10%程度ブレンドされている黒ブドウ品種である。現在のワインには、1970〜1993年に植えられた0.9ヘクタールほどの畑で取れた果実が使われているが、2007年から植え付けが始まった新しい畑、オートマン・ランチにも0.6ヘクタールほどの区画がある。この品種が単独でワインとなったことは、リッジではいまだかつてない。カリフォルニア全体では約400ヘクタールほどこの品種の畑があるが、ボルドー・ブレンドの一部として用いられるのが常である。

プティ・ヴェルドの原産地は、他のボルドー品種と同じくフランス南西部だと考えられている。その名前は、「小さい緑」という意味。開花期の天候が不順だと結実がうまくいかず、果粒が青く未熟なままになるという、この品種の性質を指していると説明される。同じボルドー地方の品種に、グロ・ヴェルド(グロは大きいという意味)という非常にマイナーなものもあるが、遺伝的な関係はどうやらないようである。

ボルドー地方でもプティ・ヴェルドは、メドック産赤ワインに数パーセントブレンドされるだけの補助的な役割にとどまっている。脇役にしかなれないのは、品質面に問題があるわけではなく、熟するのが遅いから。晩熟で知られるカベルネ・ソーヴィニョンよりも更に収穫時期が後なのだ。しかしながら、天候に恵まれた年にこのブドウが完熟すると、色が濃く、タンニンと凝縮感に富んだスパイシーなワインとなり、最終ブレンドのスケールと複雑性を高めてくれる。熟しにくい性質が嫌われ、1960〜1970年代には栽培面積を減らしたが、1990年代以降のメドックでは、地球温暖化の影響もあってか増加傾向にある。1988年時点では300ヘクタールしかなかったボルドーのプティ・ヴェルドは、2007年には480ヘクタールまで増えた。「プティ・ヴェルド増量」は、メドックの格付けシャトーでは近年一種の流行となっている。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。