モンテベロの畑に植わるボルドー品種の中で、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロに次いで面積が広いのがカベルネ・フランである。といっても、わずか1.6ヘクタールほどで、ボルドー品種全体の4%程度でしかない。加えて、うちの1.1ヘクタールは、2007年以降に植え付けが始まった新しい畑であるオートマン・ランチに植わっていて、まだワインには使われていない。目下、用いられているのは、山頂近くにある0.5ヘクタールほどの畑(1972年植樹)の果実だけである。
カベルネ・ソーヴィニョン、メルロ、カルムネールといったボルドー赤品種を生んだ偉大な「原品種」カベルネ・フラン。香りのニュアンスはカベルネ・ソーヴィニョンによく似ているが、少し華やかである(赤い花の香りがある、などと言われる)。タンニンもカベルネ・ソーヴィニョンよりは穏やか。熟するのもカベルネ・ソーヴィニョンより少し早い(メルロよりは遅い)。イギリス随一のワイン評論家であるジャンシス・ロビンソンは、このブドウのことを「カベルネ・ソーヴィニョンの女性的側面」と呼んだ。
この品種、最高の表現がなされたときは、カベルネ・ソーヴィニョンやメルロに勝るとも劣らない品格やセクシーさを示すのだが、なぜか主役として活躍する場が他の二品種と比べてうんと少ない。原産地のボルドー地方でも、カベルネ・ソーヴィニョンやメルロの栽培面積のほうがずいぶんと多いのだ。右岸でも左岸でも、カベルネ・フランは畑の10〜20%程度を占めるに過ぎず、脇役として渋い仕事をするのが常である。ただし、輝かしい例外はあって、サンテミリオンのシャトー・シュヴァル・ブラン、ポムロールのシャトー・ラフルールなどは、この品種が主役の偉大なワインである。
世界中で唯一、カベルネ・フランが土地を代表する赤品種としてスポットライトを浴びているのがロワール地方である。アンジュー地区からトゥレーヌ地区にかけてのロワール川中流域で造られる赤ワインは、たいていがこのブドウを主体としている。ただし、冷涼な気候、高すぎる収量などのせいで果実は完熟できないことが多く、青ピーマンを思わせる野菜の香りを強く放つ(とはいえ、中には傑出したロワール産カベルネ・フランもある)。
イタリアにも7,000ヘクタールほど、カベルネ・フランが植わっている。面積ではイタリア北東部が主産地になるが、ここで造られているのはロワールに似た軽いタイプのワインである。イタリアでシリアスなものを求めるなら、トスカーナに目を向けなければならない。レ・マッキオーレ、テヌータ・ディ・トリノーロといったワイナリーが、トスカーナで秀逸なカベルネ・フランを生産している。
カリフォルニアにおけるカベルネ・フランの栽培面積は1,400ヘクタールほど。カベルネ・ソーヴィニョン(3万ヘクタール)、メルロ(2万ヘクタール)と比べるとやはりうんと少ない。ボルドー・ブレンドの赤に少量用いられるケースがほとんどだが、中にはダラ・ヴァレのマヤやヴィアダーのフラッグシップのように、カベルネ・フランのブレンド比率が高いカルトワインもある。
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