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連載コラム Vol.142
メルロ
  Written by 立花 峰夫  
 
 モンテベロの畑には、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドという四つのボルドー品種が植わっている。一番多いのはカベルネ・ソーヴィニョンだが、その次に多いのがメルロで、現在約10ヘクタールの植え付けがある。モンテベロ、サンタ・クルーズ・マウンテンズのワインにブレンドされるのが主用途だが、1990年代には出来のいいブロックが単独で瓶詰めされた年もある。ブレンドにおいては、カベルネ・ソーヴィニョンの欠点――筋骨逞しいが、ふっくらした肉付きに欠けやすい――を、補うのがこの品種の役割である。

 DNA鑑定によってメルロの起源がわかったのは、2008年末とごく最近のことである。カベルネ・フランと、無名の黒ブドウ品種、マドレーヌ・ノワール・デ・シャラントの自然交配によって生まれた。交配が起こった時期は定かではないが、文献にその名が見られ始めるのが18世紀末であることから、比較的新しいブドウだと考えられている。なお、その名はボルドー地方に見られるクロウタドリ(merle)というツグミの一種から付けられたと考えられている。

 フランスのボルドー地方が本拠地で、ドルドーニュ川右岸のサンテミリオン、ポムロール地区で優れたワインが多数生まれている。ボルドー地方で本格的に人気が出始めたのは1980年代で、1990年代にはその人気が世界中に広がった。フランスには現在12万ヘクタール弱の畑があり、国で最も広く栽培されているブドウである。過去50年で7倍にもなった。アメリカでも1980年代後半から猛烈に栽培面積が増え、現在の畑は2万ヘクタール強、カベルネ・ソーヴィニョン、ジンファンデルに次ぐ黒ブドウとなっている。

 メルロは複雑性と寿命を備えた超高級ワインを生み出せる品種ではあるものの、香りにこれといった特徴がなく、ブラインド・テイスティングでは正体を特定しづらいブドウである。片親を同じくするカベルネ・ソーヴィニョンとの比較によって、その特徴が消極的に語られることが常で、「カベルネより果実味が豊か」、「〜よりアルコールが高い」、「〜よりタンニンがマイルド」などと描写される。Cabernet without the Pain(痛みを抜いたカベルネ)という言葉があるが、言いえて妙である。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。