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連載コラム Vol.140
シラー
  Written by 立花 峰夫  
 
リットン・スプリングスの自社畑には、合計で18エーカー(7ヘクタール強)のシラーが植わっており、「リットン・ウェスト シラー」の名前で瓶詰めされている。生産量が少ないため、アメリカ国内だけでしか販売されていないが、リッジの隠れた名品のひとつである。栽培責任者のデヴィッド・ゲイツはこの品種がお気に入りのようで、栽培面積は増加傾向にある。生産量が増えれば、輸出市場にも出てくるかもしれないので楽しみにしたい。

シラーは、フランス南部ローヌ渓谷原産のブドウ品種で、デュレザというもう栽培されていない黒ブドウと、モンドゥース・ブランシュというこれまたマイナーな白ブドウとの自然交配によって生まれた。親はともにローヌの古い品種である。

2004年時点における世界の栽培面積は14.3万ヘクタール。全ブドウ中の第7位(黒ブドウ中の第5位)と人気品種のひとつになっているが、一昔前まではさして知名度も人気もなかった(1998年時点の統計では、上位20位にも入っていない)。近年、世界中で急激に畑を広げているライジングスターである。

原産国フランスにおける栽培面積は、2006年時点で6.8万ヘクタール。ローヌだけでなく、ラングドック&ルーション、プロヴァンス、南西地方――すなわち南フランス全域で栽培が推奨されている。約40年前の1968年に遡ると、フランスにおけるシラーの栽培面積はわずか2700ヘクタールで、原産地のローヌ北部に植わっていたのがほとんどだった。現在も、品質・価格面ではローヌ北部が最重要産地で、エルミタージュ、コート・ロティといった地区で卓越したワインが生まれている。

量の面でフランスに次ぐ国がオーストラリア。2007年時点で4.3万ヘクタールの畑があり、同国内では最も栽培面積の広いブドウである。シラーズ Shirazという別名で呼ばれ、ローヌよりも果実味とアルコールが豊かな力強いスタイルは、海外市場でも高い人気を誇っている。大手ワイナリーの造る廉価なブランドワインのイメージが強いが、一本一万円以上するような高級品も少なくはない。

カリフォルニアで初めてシラーが植えられたのは1970年代のこと。しばらくは栽培面積が伸びず、1992年時点でもたった160ヘクタールしかなかったが。しかし、そこから世界的なシラー・ブームに乗って植え付けラッシュが起きた。2007年の栽培面積は7,600ヘクタールで、黒ブドウ中第5位の人気である。ローヌ・レンジャーという名の生産者グループが牽引役で、高級品の主産地はサン・ルイス・オビスポ郡、サンフランシスコ湾の南のエリア、ソノマ郡、ナパ郡になる。カリフォルニア産シラーの典型的スタイルはまだ定まっていないが、どちらかというとローヌよりもオーストラリア寄りであろう。

リッジのシラーについては、どちらかというとローヌ風と言える。ただし、アルコール度数は14%台とオーストラリアと同じぐらいである。少量のヴィオニエが混醸(ともに発酵させること)されているのが特徴で、このテクニックはローヌ北部の古い伝統である。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。