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連載コラム Vol.138
マタロ(ムールヴェドル)
  Written by 立花 峰夫  
 
ガイザーヴィルやパガニ・ランチのワインに、ごくわずかブレンドされている黒ブドウ品種がマタロである。マタロというのは、カリフォルニア、オーストラリアなど一部の地域でのみ用いられている名称で、一般的にはフランス名の「ムールヴェドル」が用いられている。

温暖な気候の産地でしか栽培できない黒ブドウ品種で、南フランスやスペインが主産地である。南仏プロヴァンス地方のバンドールが最も有名な産地だが、原産地はおそらくスペインで、同国ではモナストレルと呼ばれる。スペインでは、イエクラ地域、フミーリャ地域など南東部が主要な生産地域である。

小粒で果皮が厚いため、渋味が強く凝縮感のある力強いワインを生む。香りは非常に野性的で、よく用いられる表現は「ジビエ」、「動物」など。生育サイクルが非常に遅い品種であるため、なまじの温暖さでは完熟してくれない。それゆえ、ポテンシャルの高さにもかかわらず、南フランスでの栽培が一部地域にとどまっていた。しかしながら近年では、高品質でファッショナブルな品種として、ラングドック・ルーション地方での作付けが増えてきている。シラーよりは肉付きがよく、グルナッシュやサンソーよりは骨のある品種で、ブレンドによって他品種の欠点を補う役割を果たす。

オーストラリアでも、他のローヌ品種(シラー、グルナッシュ)とともに19世紀から栽培されてきた(この三品種のブレンドワインを、GSMと同国では呼ぶ)。昨今、同国ではマタロの人気が復活してきており、品種名表示ワインに仕立てられることも増えているらしい。

カリフォルニアでの栽培の歴史も、やはり19世紀まで遡る。現在のカリフォルニア州における栽培面積は、200ヘクタール程度と広くはない。長らく不人気品種だったが、1990年代以降、ローヌ・レンジャー(ローヌ品種をカリフォルニアで振興させようとする生産者グループ)による試みが目を引くようになった。ローヌ・レンジャーたちは、しばしばマタロの名ではなく、フランス名のムールヴェドルをワインに冠している。リッジのラベルでも、MATARO (MOURVEDRE) とふたつの名前が併記されている。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。