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連載コラム Vol.135
プティ・シラー その2
  Written by 立花 峰夫  
 
カリフォルニアで「プティ・シラー」と呼ばれるブドウの大半が、ローヌ地方原産のデュリフと同一種であることは前回述べた。シラーとプルールサンの交配で生まれた品種で、苗木屋のデュリフ博士によって1880年代初めに開発された。ベト病への抵抗力が強いことがウリだったが、母国フランスでは品質面での評価がふるわず、栽培面積は20世紀の半ばから減少の一途をたどる。1950年代末のフランスには500ヘクタール以上の作付けがあったが、2006年時点では1ヘクタール以下しか残っていない。

このデュリフ=プティ・シラーが、カリフォルニアに持ち込まれたのは1884年、母国での開発から間もない時期である。サンフランシスコ近郊にあったリンダ・ヴィスタ・ワイナリーの創始者であるチャールズ・マッキーヴァーが輸入した人間で、プティ・シラーという名を使い始めたのも彼らしい。19世紀末の時代には、この品種も他のブドウとゴタ混ぜに植えつけられるのが常であった。リットン・スプリングスやガイザーヴィルの古い区画でも、ジンファンデル、カリニャンほかの品種に混ざってプティ・シラーが植えつけられている。

プティ・シラーは、1970年代のセントラル・ヴァレー地区で人気の品種だった。安価な赤ワインに色とタンニンを加えられる点が買われていたのだ。しかしながら、繁殖用の穂木がウィルス病にやられていたために収量が上がらず、日焼けにも弱かったために、その後栽培面積を減らしていった。なお、1970年代にはナパ・ヴァレーでもプティ・シラーが広く栽培されていて、当時ナパでトップの座にあったジンファンデルに面積で次いでいたらしい。ジンファンデルに、色とタンニンを加えられる点が買われていたのである。

1990年代半ばまで、カリフォルニアでも減少が続いたプティ・シラーだが、その後少しずつ面積が増え始めた。2007年時点で合計2,800ヘクタールほどの畑が、ソノマ、パソ・ロブレス、アマドア、メンドシーノ、ナパ郡などに広がっている。2002年には、「 P.S. I Love You 」(ビートルズの有名な曲名)をキャッチフレーズにこの品種の研究やプロモーションを行う団体、A Petite Sirah Advocacy Organization (プティ・シラー擁護団)が結成され、現在のメンバー・ワイナリー数は80を超えた。リッジも2007年に加盟している。

なお、カリフォルニア以外で、今日デュリフ=プティ・シラーが栽培されている地域には、オーストラリアと中南米(アルゼンチン、ブラジル、メキシコ)がある。オーストラリアでの栽培面積は現在300ヘクタールほどで、近年はリヴァーランド、リヴェリナといった大量生産地区で盛んな植え付けがなされている。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。