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連載コラム Vol.134
プティ・シラー その1
  Written by 立花 峰夫  
 
カリフォルニア独自のブドウと言うとまずジンファンデルの名前が挙がるが、同じような「生い立ち」の黒ブドウとしてプティ・シラーという品種があることをご存知だろうか?この品種、リッジが造るジンファンデルのワインでは最重要のブレンディング・パートナーのひとつになっており、リットン・スプリングスでは特にブレンド比率が高い(20%前後)。また、リッジは長年ナパ・ヴァレーのヨーク・クリークにある畑のブドウを使い、品種名表示のプティ・シラーも生産している(日本では未発売)。

この品種、黒々とした濃い色と強靭なタンニンを備えた、野趣あふれる風味のワインを生む。タンニンの強さは、長い寿命にもつながっている。洗練されているとは言いがたいため、「高貴」なブドウだとは到底みなされないが、独特の魅力がある。タンニンが弱く色がさほど濃くもないジンファンデルにブレンドすると、その欠点を補ってくれるし、寿命も延ばしてくれる。リットンのジンが力強く寿命も長いのは、プティ・シラーのおかげである。

19世紀末にフランスから輸入され、カリフォルニアで栽培され始めたこのブドウ、プティ・シラーという名前がついたのはアメリカにおいてである。スペルは「Petite Sirah」。日本では「プティ・シラー」というカタカナ表記が一般的だが、現地での発音は「ペティット・シラー」に近い。ローヌの高貴品種シラー Syrahとの親近性が意識されたネーミングだと思われるが、アメリカに輸入された後にその起源がわからなくなってしまい、最近までどのフランス品種と同じなのかがわからなかった。ジンファンデルとよく似た来歴である。

起源が判明したのは1990年代末のDNA鑑定によってであり、これはジンファンデルよりも数年早かった。フランス・ローヌ地方のマイナー品種であるデュリフ Durif がその正体で、これはシラーとプルールサン Peloursin という赤品種の交配によって生み出されたブドウである。ただ、ややこしいことに、カリフォルニアではこのデュリフ以外のブドウ品種も誤ってプティ・シラーと呼ばれていることがある。デュリフの親であるシラー、プルールサンのそれぞれ、そしてプルールサンとデュリフの交配品種(特に別の名前はない)も、プティ・シラーと呼ばれているケースがあるのだ。ただ、カリフォルニアで栽培されるプティ・シラーの大半は、デュリフとイコールである。

続きとなる次回には、カリフォルニアにおける栽培の歴史、他国での栽培状況などを概観する。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。