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連載コラム Vol.133
アメリカのワイン不況は続く
  Written by 立花 峰夫  
 
景気が回復基調に入ったと言われだしたアメリカだが、まだまだワインの売れない状態は続いている。最も深刻な売り上げ減を記録しているのは、「ウルトラ・プレミアム」と呼ばれる小売価格25ドル以上のセグメントで、対前年比で12〜20%程度は落ち込んでいるらしい。リッジが造るワインは、ほぼすべてがこのセグメントに属しているわけだが、強いブランド力のおかげでさほどのダメージは受けていない。ただ、カリフォルニアワイン市場全体の地盤沈下は深刻で、業界には厳しい空気が漂っている。

ドル安なのだから、輸出を増やせばいいかもしれない。ただ、アメリカは主要ワイン生産国の中では比較的輸出への依存度が低く(輸出比率は量ベースで2割強)、高級ワインほどその傾向が強まる。国内市場からの重要が大きいから、無理に外国に輸出しなくてもよかったのである。世界的な評価を受けているリッジのようなワイナリーでも、国内マーケットへの販売が9割以上を占めているのは意外な事実であろう。アメリカ国内でしか販売していないような高級ワイナリーも少なくない。海外市場へのパイプを持っていなければ、いきなり輸出を増やそうと思ってもそう簡単にはいかないはずだ。そもそも、海外市場も景気が悪いのは同じである。日本市場でも今年は高級ワインの売り上げ減は深刻で、シャンパーニュなど対前年比で4割も落ち込んでいる。

したがって、アメリカの高級ワイナリーは概ね今を我慢の時と考え、じっと春を待っている。しかしながら、希望の光がないわけではない。高級ワインの販売は落ち込んでいるものの、アメリカ人のワイン消費量はむしろ増えているのである。つまり、今まで30ドルのワインを飲んでいた人が15ドルのワインを手にとるようになったかもしれないが、ビールなどもっと安い酒に切り替えたわけではないのだ。消費量が増えているということは、新しい飲み手がワインの世界に入ってきたことを示してもいる。景気が回復し、皆が再び高いワインを飲み始めてくれれば、アメリカの高級ワイナリーは過去をも上回る黄金期を再び迎えることになるだろう。「過去30年に起きた三度の不況(1981〜1982年、1990〜1991年、2001年)のあと、消費者はワインに――高級ワインのところに戻ってきた」と、リッジの販売・マーケティング担当部長のデヴィッド・アマディアはニュースレターに記している。

2009年のハーヴェスト・レポート内でもお伝えしたが、このハーヴェストからリッジに最新式の選果システムが導入された。その仕組みや効果については過去のコラムを見ていただくとして、今回は選果一般とカリフォルニアでの必要性について考えてみる(なお、リッジの選果システムが動く様子を、以下のサイトでご覧いただくことができる)。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。