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連載コラム Vol.132
選果について
  Written by 立花 峰夫  
 
2009年のハーヴェスト・レポート内でもお伝えしたが、このハーヴェストからリッジに最新式の選果システムが導入された。その仕組みや効果については過去のコラムを見ていただくとして、今回は選果一般とカリフォルニアでの必要性について考えてみる(なお、リッジの選果システムが動く様子を、以下のサイトでご覧いただくことができる)。
http://www.ridgewine.com/wholesale/index.tml

選果とは、タンクにブドウが入ってアルコール発酵が始まる前に、望ましくない果実や物体を取り除くことである。収穫の際に、未熟果や腐敗果を摘まないようにすることも選果の一種だが、狭義には除梗の前後で行う選別作業を指す。

狭義の選果作業は、ベルトコンベアになったテーブル(選果台)の上に、ブドウの房、または果粒を薄く並べて行う。テーブルの両脇に作業員が数人ずつ並び、目視あるいは手触りで不良果(未熟果、腐敗果)を見つけ出しては取り除くのだ。果梗の切れ端、葉、虫、ゴミなど、ブドウ果粒以外の物体(英語圏ではMOG = material other than grapes と呼ぶ)が混入していればもちろん取り除く。この選果作業、とにかく時間と手間、つまりはコストが相当にかかる大変なものである。

テーブルを使った選果作業は、1990年代のフランスでまず普及した。ただし、フランスの中でも選果台導入は高級ワインの生産者に限定されており、それは製造コストのアップ分を価格に転嫁できるか、あるいは吸収する余裕がないといけないからである。フランスで選果台が実績を上げると、新世界の生産者でも同じような設備・作業を導入するところが出始めた。

フランスとは違う気候を持つカリフォルニアにおいて、フランスと同じ作業が必要かどうかについては議論が分かれる。収穫時期に雨がまったく降らないカリフォルニアでは、フランスでの選果作業における最大の目的、腐敗果を取り除くことの必要性がほとんどない。だから、「収穫時に畑で十分に気をつければ、破砕前後の選果までは行わなくてもよい」という考え方がカリフォルニアでは根強くあるのだ。膨大な人手と時間をかけて選果をしても、それに見合った品質の向上が得られないなら確かに意味がない。

アメリカでカベルネを造る生産者の中では、ナパ・ヴァレーのオーパス・ワンが早期に選果台を導入した造り手のひとつである。収穫時期にこの蔵を訪れると、破砕の前後で入念に選果をしている様子を目にできる。ボルドーのシャトー・ムートンがオーナーの蔵だから、フランスの流儀が取り入れられるのはごく自然なことだが、「ムートン/オーパス・ワンらしいマーケティングの一種」との批判もなされてきた。

ところが過去数年の間に、選果作業は新しい時代を迎えた。人手による選別作業を、機械的な仕組みによって代替する設備が実用化されてきたのだ。自動選果装置にはいくつかのタイプがあり、リッジがこのたび導入した Vaucher Beguet 社の Mistral 140 というシステムもそのうちのひとつである。自動選果装置の最大のメリットは、長期的に見れば相対的に低コストで選果作業が可能になることだ。カリフォルニアでは費用対効果の面で疑問のあった選果作業も、自動選果機を前提とするなら考え方が変わってくる。

リッジが、今年になって選果システムを導入したことの背景には、上記のような事情がある。ミストラル140がどの程度の品質向上につながるか、投資に見合った効果が果たしてあるかは未知数だが、結果となる2009年産ワインの発売を期待して待ちたいと思う。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。