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連載コラム Vol.130
2009年ハーヴェストレポート No.3
  Written by 立花 峰夫  
 
現地で収穫作業にいそしむ黒川氏より、レポートの続きが届いた。今回、次回で今年のハーヴェスト・レポートも完結となる。今回は、10月15日アップのコラムでもご紹介した、ブドウの選別機の話の続きで、非常に興味深い内容。以下、黒川氏のレポートをご参照あれ。

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前回のレポートで紹介した自動選別機の名称がMistral140(仏製)。
ミストラル(Mistral)とは、ウィキペディアによると、フランス南東部に吹く地方風。
冬から春にかけてアルプス山脈からローヌ河を通って地中海に吹き降ろす、寒冷で乾燥した北風。南仏ではミストラルは、「時にロバの耳を吹きちぎる」「老人は溝に吹き落とす」と言われ、過去に風速50mを記録したこともあるという。
同じくウィキペディアによれば、フランスの戦艦などにもこの名前が用いられるくらいで、勝ち目の無い自然の脅威のようである。

この風の名前を持つMistral(選別機)は、とにかく余計なものを吹き飛ばして必要なBerryだけをタンクに送るものという意味合いで、つけられた名前だと想像がつく。
振動するテーブルの上に聳え立つ違和感のある大きなファンがそれを物語っている。そして、このMistralは、いい意味でも悪い意味でも2009年のハーヴェストの目玉となった。いい意味では、かなりの量のステムの切れ端、未熟果、葉などを排除してくれる。(これまで、それらが入っていても良いものが出来ていたので問題は無いはずであるが、さらに良くなる可能性を示唆していると信じている)。悪い意味の方は、とにかく時間が掛かる。使い始めた当初は、これまでの処理速度の5倍以上かかって、毎日夜中までの作業となった。ファーストフードからスローフードへの見直しが取り上げられる昨今、この品質を追求するための低速化は、決して悪いことではないのだが、オペレーターの疲弊は、品質向上にはマイナス要因である。その為、機械調整を繰り返し、最終的に、2倍程度の速度にすることが出来た。

このMistral140の導入に伴いRIDGEでは、レシーバー(受け入れ装置)と呼んでいるブドウを受け入れる装置も新設している。 収穫されたブドウは、トラックで運ばれてくる。このブドウを最初に待っているのが、除梗(destem)破砕(Crush)と言う工程である。その中で、トラックのブドウをこの工程へ導くコンベアのことをレシーバーと呼んでいる。

これまでのレシーバーは、スクリュータイプのコンベアであったが、今年からベルト式のフラットなタイプになり、徐梗破砕機までの搬送が格段に穏やかになった。これは、RIDGEのPaul Draperが10年近く暖めていた構想を実現したものである。

その次の工程が、Mistralによる選別である。
この新しい機械の効果は、熟成を含めて見ていかなければならないが、未熟な青い果粒がかなりの量、除去されていることから、熟した果実による味わいは以前に増して期待できるのではないかと思われる。実際、醸造責任者のエリック・ボーハーの話では「茎臭(ステム臭)がなくなり、果実味が増したように感じられる。確実に良くなっている気がする。」とのことで、私自身も期待するところであり、これを使ったカベルネがリリースされる2012年が待ち遠しい。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。