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連載コラム Vol.127
ワイン生産者の選択肢:二つの世界の最良部分 その3
  Written by ポール・ドレーパー  
 
モンテベロの各区画から仕込まれたワインは、常に試飲が続けられるのだが、アッセンブリッジ(ブレンド)については1月下旬まで待つようにしている。その頃になると、マロラクティック発酵(二次発酵)が完了していて、ワインがおおむね安定するからだ。アッセンブリッジに際しては、33前後の区画のワインを6つずつのフライトに分け、ブラインド・テイスティングで旗艦銘柄(モンテベロ)とセカンドワイン(サンタ・クルーズ・マウンテンズ・カベルネ)に選別する。まれではあるものの、セカンドワインの選にも漏れてしまう区画のワインが出ると、バルクで市場に売り払ってしまう。ともかく、モンテベロの畑から造られる二種類のワインは、いずれも単一の自社畑産ブドウのみを用いている。

ガイザーヴィルとリットン・スプリングスのワインについては、ブラインド・テイスティングによる選別の時期がもっと早く、二次発酵が始まるとすぐに行われる。最も強靭なワインを生んだ区画や、過去のヴィンテージで最も典型的なワインとなった区画は、単一畑名ワインであるガイザーヴィルやリットン・スプリングスとして瓶詰めされる。一方、柔らかいワインとなった区画や、あまり典型的でないワインとなった区画は、別にとって置かれる。この時点で我々は、伝統的なワイン生産者の役割を捨て、「winemaker = ワインを創る人」になる。さらにテイスティングを続け、ガイザーヴィルやリットン・スプリングスで選に漏れたワインに、他の畑(パガニ、ナーヴォ、マゾーニ、ブキニャニ、およびその年に収穫したそれ以外の畑)で同様に選に漏れたワインのうち、最良のものをブレンドするのである。そうして出来上がるのが「スリー・ヴァレーズ」(日本市場では現在取り扱いなし)で、これは我々醸造家がブレンドを通じ、スタイルと基本的性格を決めたジンファンデルだと言える。混ぜ合わせるにあたっては、際立った個性を持つ多彩なジンファンデルから候補を選べるし、プティット・シラーやカリニャン、もちろんのことアリカンテもある。

スリー・ヴァレーズは、複数のブドウ畑、品種を注意深くブレンドしたワインの好例である。二つのアプローチを用いることによって、リッジの単一畑名ワインは一層強く個性的に、「ワインメーカー」として創ったワインは美しいまでに柔らかく、飲みやすい仕上がりになる。リッジの存在意義が、単一畑名ワインと自然なワイン造りにあることは変わらないが、二つのアプローチの間を行き来することによって、両方の世界でより優れたワインを世に出すことができるのだ。

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 ポール・ドレーパー
 リッジ・ヴィンヤーズ 最高醸造責任者 兼 CEO