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連載コラム Vol.124
醸造家が考える「ワインの評価」 その4
  Written by ポール・ドレーパー  
 
同じようにして、ジョン・ティルソンは、『ジ・アンダーグラウンド・ワインレター』――今日『ジ・ワイン・レヴュー』と改題された媒体の刊行を始め、株式仲買人としての仕事の合間に見つけられるあらゆる時間を捧げていた。彼自身、経験豊富なテイスターだったが、ふさわしい能力を備えた少人数からなるテイスティング・グループを組織し、ニュースレターに登場するワインの評価と描写を担当させていた。

この話題について考えるにあたって、『ワイン・スペクテイター』のことに触れないわけにはいくまい。パーカーの『ワイン・アドヴォケイト』をさておけば、この雑誌ほど、消費者によるワインの購買判断に影響を与えている刊行物はない。雑誌の影響力がこれだけ大きいと、それぞれのテイスティング結果について最も大きな責任をもっているスタッフを、代表の評価者に仕立てるのがよいのだろう。読者は、たとえばサンフランシスコに拠点を置くジム・ローブが、カリフォルニア産カベルネの試飲結果をまとめたとか、ジム・サックリングがロンドンで別途、ボルドーワインについて試飲して評価したとか、そういうことを知っているほうが、点数の背景がよくわかるのかもしれない。少なくとも、複数の人間がワインの試飲・評価していると、消費者にわかることは間違いない。

たくさんのライターたちが、我々のワインを試飲・評価しており、そのためにサンプルの提供も行っている。しかし我々は、ワインを数値評価することには賛同していない。テイスティングの結果を自分たちの媒体に引用する際も、今では点数部分は削除し、試飲コメントだけを掲載するようにしている。

個人の好みを言うと、一人の個人、あるいはメンバーがめったに変わらない小グループによる評価のほうが、一貫していてわかりやすい点で優れているように思う。理想的なのは、各メンバーが得意とする専門分野を持っていることである。たとえばピノ・ノワール、カベルネ、東ヨーロッパのワインなど。なにかの品種や産地のワインを試飲するにあたり、その分野を専門とする人間が、グループのためにコメントを書くのである。結果として発表される評価のうち、少なくとも半分ぐらいはこの担当者の声が反映されたもので、記事もその人間の名前で出される。読者は、少しずつこの担当者の基本的な好みを理解するようになり、コメントに一貫性があるかどうかを判断するようになる。私にとっては、ワインを好みによってグループ化するやり方(秀逸、良好、貧弱、など)のほうが、点数をつけるよりも理解しやすい。

今日、あまりに多くの人々が、コンクリートとプラスチックに囲まれた世界に暮らしている。空気はエアコンを通ったものだし、人は大地や自然のサイクルからどんどん遠ざかっていっている。ワインは、自然につながるもの、本物につながるものである。すぐれたワインには魂が満ちており、単なる消費財とはちがっている。我々がワインに惹かれるのは、それがいくぶんか神秘的な飲み物であるからにほかならない。点数ではなくコメントこそが、啓蒙と情報伝達を行う最良の手段なのである。

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 ポール・ドレーパー
 リッジ・ヴィンヤーズ 最高醸造責任者 兼 CEO